五四  十字架から下ろされたもう

ヨゼフとニコデモが城門まで来てみると、それは閉ざされていた。附近の道路や城壁は大勢の兵卒で固められていた。それは暴動の勃発を防ぐためにファリサイ人から頼まれて行われた処置であった。ヨゼフがかれらに許可の証されている文書を示した。兵卒たちはヨゼフたちにすぐ通ることを許した。しかし兵たちも城門をすでに開こうとしたけれど、どうしても開くことが出来ぬと説明した。それは確かに地震のため扉がどこかひっかかっているからであると言った。しかしヨゼフとニコデモがかんぬきを動かすと、扉は簡単に開いたので、みなびっくりした。かれらがカルワリオに着いたころ、空はまだ曇って居り、暗く霧がたちこめていた。かれらは聖婦人たちに出会った。カシウスは数人の兵士と共にまったく別人のようになり、控え目にかつ敬虔に少し離れた所に立っていた。そこへ隊長アベナダルも来た。かれらは大いなる苦しみのうちにうやうやしく遺骸を十字架より下ろし、埋葬の準備をしたりするもっとも聖なる愛の仕事を始めた。聖母はマグダレナと共に十字架の丘で右がわに、主とディスマスの十字架の間に座っていた。他の婦人たちは香料、布、水、海綿、容器などを準備するにせわしかった。カシウスは隊長が来たのを見て近づき、自分の眼がなおされた奇跡を報告した。そこに居合わせた人々の態度は非常に感動深く、厳かな真剣さに満ち、無言の愛にあふれていた。さてニコデモとヨゼフは、はしごを十字架の裏にかけ、大きな布を持って登って行った。その布には三本の広い革紐がついていた。かれらは主の体をその腕と膝の下の所で十字架の幹に結わえた。その腕は布で包み、十字架の腕木にしっかりと結びつけた。次いでうしろから釘の突端に金具を当てて釘を木から打ち抜き出した。イエスの手はこの打撃で余り揺り動かないで釘はやさしく傷口から抜け落ちた。それは、傷が体の重さのために広く裂けていたことと、布と縄とで縛りつけられていた体が、その重量をさほど釘にかけていなかったからである。ヨゼフが左手から釘を打ちぬき、左腕を紐で結き、それを静かに体の所に下ろして来た時、ニコデモとイエズスの右腕を同様に横木に結き、右手の釘を抜きとり、その右腕を結わえて下ろした。その間、隊長アベナダルは足の大きな釘を非常に骨折って抜き取った。カシウスは抜き取られた釘をうやうやしく捧げ、一まとめにまとめて聖母のそばに置いた。次いでかれらははしごを十字架の幹に縛りつけてある上の革紐をほどき、それをはしごについているカギの一つにかけた。他の二本の革紐も同様にしてほどいた。こうして革紐を次々と低いカギにかけてゆくにつれ、救い主の体はその膝の所を持っていた隊長の方に下がって行った。一方ヨゼフとニコデモは上半身を腕を持って支え、あたかも重傷を負った愛すべき友を運ぶように、はしごを静かに用心深く下りるのだった。イエスを十字架から下ろす光景は真に書き現せぬほど感動的であった。かれらはすべてをあたかも主に痛みを与えることを恐れるかのごとく、注意深くいたわりつつ運んだ。かれらは主のご在世中に、主に対し抱いていたあらゆる愛情と尊敬を今や聖なる遺骸に注いだ。居合わせたすべての人々はまじろぎもせず救い主の体を見上げ、一つ一つの所作を見守っていた。みな一言も言わなかった。働いている男たちも、自然にかもし出される敬いの念に包まれて、あたかも聖なる儀式に仕えるかのように必要な事柄だけを低い声でささやいていた。主の体を十字架からはずず槌の音が響き渡るや、みなふたたび激しい苦しみにおそわれた。その響きは残虐な釘づけを思い出させた。男たちは救い主の聖なる遺骸を聖母の胸に委ねた。かの女は苦しみのうちに待ちこがれながらそれを受け取られた。