四六  十字架上のイエスと強盗

主の十字架が押し立てられてから獄吏は十字架にはしごをかけ、それをのぼって行った。そして十字架をたてる時、釘から裂け落ちぬようにと聖なる体を幹に縛りつけておいた綱をほどいた。苦しみは倍加された。主は果て知らぬ苦しみの深い淵に沈み、しばし死んだように、垂れ下がっておられた。周囲のざわめきは一時静まり返った。茨の冠に押しつけられて聖なる頭は胸に垂れ下がり、無数の傷から滴り落ちる血潮は目くぼ、髪、ひげ、やつれ果てて開かれた口の中などにあふれた。主のお体は無理に引きのばされたためにすべての筋肉、傷つき裂かれた皮膚は目も当てられなく張りきっていた。実際にあらゆる骨をことごとく数えることができた。血潮は聖なる足をつらぬいている恐るべき釘の下から十字架の幹を伝わって下へ流れ落ちた。すでに渇いていた傷口も恐ろしく引っぱられたために新たに引き裂かれ、鮮血が流れはじめた。聖なる体は血を失ったためにますます青白くなって行った。しかし恐ろしく変わり果てた姿にもかかわらず、十字架上の主は言い現すことのできぬほど、畏敬の念を起こさせた。神の御子、時の流れのうちに自らを犠牲とした永遠の愛は、目も当てられぬほど無惨に傷つけられながらも、そして世の罪を負って死にのぞめる過越しの羊の状態においてすら、美しく清くかつ神聖なものであった。聖母の肌色のごとく、キリストも元来透き通る赤味をおびた美しく輝いた黄色の肌色をお持ちだった。ご生涯の最後の数年、広く各地を巡り歩いたため、主の頬は少し焦げ茶色に日焼けしておられた。その肩は広く、腕の筋骨はたくましく胸は張り出て広かった。またその腰は力強く、足も同様に強くて、主が多く歩まれ、山に登られたことを物語っていた。その足は非常にきれいで筋が張り、多くの巡回によって足の裏にはいくつかのタコができていた。その手は気品があったが弱々しくはなかった。首は短くなかったが強かった。頭は美しく均整がとれ、あまり大きくなかった。額は広くひいでて顔はすっきりと美しい楕円形をしていた。髪はさほど濃くはなかった。主はそれを無雑作に分けて首の所まで垂らしておられた。髯は長くなく、あごの所で二つに分かれていた。しかし今や人の子のすべての美しさは変わり果ててしまった。主の十字架の裏がわは丸くなっていたが、表面は平らで二、三カ所にくぼみがあった。十字架の各部分の色は異なっていた。ある所は褐色で、ある所は黄色く、そして幹は長い間、水の中に漬けておいた木のように黒ずんでいた。強盗の十字架はずっと粗雑に作られていた。その二つの十字架は丘のはしに左右に向き合って立てられていた。主の十字架と強盗の十字架の間は人が一人通りぬけられるぐらいの間隔があった。十字架上の強盗の形相はものすごく、特に左がわの方は狂暴な泥酔した悪党の面構えであった。彼らは全くよじりゆがめられ、打ち砕かれ、腫れ上がり、つり上げられてぶら下がっていた。その顔色は褐色でかつ青かった。唇は流れ出る血のために黒くなり、目は腫れ上がって真っ赤でまた飛び出していた。かれらは締め付けられる時、ものすごくうなり、叫んだ。ゲスマスは呪い、悪態の言葉を吐いていた。横木をとりつけた釘のため、かれらは頭を前の方に押し出していなければならなかった。そして痛みのためにけいれんし、身をよじ曲げていた。両方の脛は固くしっかりと縛っておいたにもかかわらず、一人の強盗はその足を上に上げるようにもがいていたので膝が飛び出た。