四四  十字架を押したてる

救い主を釘づけてから、かれらは綱で十字架の上の方を例の小高い場所に持って行き、その綱を向こう側にある横木の方に投げた。大勢の獄吏がかかって十字架を引き起こした。他の者はその幹をささえてその根もとを穴の方にずらした。そして十字架が垂直になるように十字架の先端をいくぶん前かがみにささえた。そしてどすんと身の毛のよだつ響きと共に重荷は穴に落ち込んだ。獄吏、ファリサイ人および遠くに立ち並ぶ群衆がわめき叫んでいる中に、十字架が揺れながら押し上げられ、激しく打ちふるって突き落とされた光景は全くぞっとする。しかし同時に深く心を打たれるものがあった。その時、罵倒のこえばかりでなく、敬虔な嘆き訴える声も一方にわき起こった。地上からわき上がったいとも尊き声、すなわち最も悲しめる聖母、聖婦人たち、かれの愛弟子および清き心を持っているすべての人々の声が十字架にささげられた。肉となりたまえる永遠のみ言葉に感動すべき嘆きの叫びとなって向けられた。聖なる者のうちで最も聖なるお方、霊魂の浄配が生きながらにして十字架に釘づけられ、あらあらしい罪びとたちの手でゆさぶられつつ押し上げられるや、愛する者たちの手はすべてあたかもお助けしようとするかのように不安気に差しのべられた。しかし十字架が大きな響きを立てて穴の中に真っ直ぐに落ち込むや瞬間短い沈黙が起こった。みな新たな考えにおそわれたように見えた。地獄でさえも十字架がずしんと落ち込んだ時戦慄した。そして地獄のお先棒をかついでいる人々を罵倒、猛り狂った呪いへ駆り立てた。しかし死せる霊魂や、古聖所では気づかわしく待ちかねながら喜びが起こった。かれらは十字架の地響きを熱烈にあこがれながら聞いた。この響きはかれらには救いの門に近づく勝利者の合図のように聞こえた。聖なる十字架が地上の真ん中にはじめて打ちたてられた。それは楽園の第二の生命の木のようであった。イエスの広く開いた傷口からは四つの尊き流れが地上に滴り落ちた。それはかれらの冒涜を贖い、新しいアダムたるかれが再び豊かな楽園となるためであった。われらの救い主が十字架に上げられ、罵倒の叫びがしばし静まった時、大小多数のラッパの音が神殿から響き渡った。それはかたどりである過越しの羊の屠殺の開始を告げた。そして神の真の過越しの羊に投げかけられている罵倒やさげすみの叫びを暗示深く、また厳かにさえぎった。多くの頑固な心は揺り動かされ、洗者ヨハネの言葉を思い起こすのであった。「見よ、世の罪をおのが身に負いたもう神の小羊を」。十字架が穴のかたわらに立てられた時、主の足は地上ほぼ人の高さほどの所にあったが、穴の中にうずめられた時、主の友がその足を抱き接吻できるほどであった。イエスのお顔は西北を向いていた。