キリストの受難6 墓に葬られる

2019年6月28日

「キリストの受難を幻に見て」を短くしています。

1 アリマテアのヨゼフ、ピラトを訪れる 

ピラトが獄吏を送り出したあと、アリマテアのヨゼフがピラトの所に来た。かれはすでにイエスの死去を知っていた。かれはカルワリオ山からさほど離れていない所に庭を持っていた。そこには岩掘った新しい墓があった。かれはニコデモと相談して主の遺骸をそこに埋葬することにきめた。その庭にはすでにかれの下僕たちがいて墓を掃除し、その内部をまだいろいろと整えていた。ニコデモはまた遺骸の埋葬に必要な布や香料を買いに二、三カ所へ出かけて行った。

ヨゼフはピラトが非常におびえ、うろたえているのを見た。かれはピラトにイエスの遺骸を十字架から下ろす許しを願い出た。そして主を自分の墓に葬りたいと言った。ピラトはこの名望家が、イエスの埋葬の許可を熱心に願い出て来たので動揺した。そしてイスが無罪だったことをますます意識した。

しかしかれは何気ない風を装って尋ねた。「それではかれはもう死んだのか?」かれは獄吏をわずか二、三分前に受刑者のすねを折って殺すために遣わした所であった。そこでかれは隊長アベナダルを呼びよせ、ユダヤ人の王はもはや死んだかどうかを尋ねた。隊長はピラトに主のご死去、その最後の言葉と高らかな叫び、地震、岩が破壊されたことなどを語った。

ピラトは、十字架に釘づけられた者はたいていもっ長く生きられるのに、主が速やかに死去されたことに驚いたような振りをした。しかし内心彼はいろいろのしるしが、イエスのご死去の際に起こったことを知って不安を覚え、動揺をかくせなかった。

おそらく自分の残忍性をいくらかでも償うつもりであったのであろうかれはすぐヨゼフにイエスの死骸を十字架から下ろし、埋葬する全面的な許可を文書で交付した。かれはこうすることによって大祭司を怒らせることが出来るのを喜んだ。かれらはきっとイエスが殺人犯といっしょの不名誉な埋葬で、片づけられることを望んでいたに違いないからである。

アリマテアのヨゼフは総督のもとを去り、待ち合わせているニコデモの所に行った。ニコデモはある善良な婦人の所でヨゼフを待っていた。この婦人は香料を売っていた。ヨゼフはすでにイエスの死骸を整えるためにそこでいろいろなものを買い求めていた。そこの家にないものは婦人がわざわざよそから買って来てくれた。

それは各種の香料、いろいろの布、縛る布であった。これらをかの女は便利に持ち運び出来るような包みにした。ヨゼフはさらに非常にきれいで上等な木綿地を買いに自らもう一度出かけた。この婦人の下男たちはニコデモの家のそばの小屋から、はしご、かなづち、目釘、水をいれる革袋、容器、海綿などのいろいろな必要品を持って来た。かれらはこれらのものを軽い担架に入れた。

2 イエス、十字架から下ろされる

ヨゼフとニコデモは、カルワリオに着、聖婦人たちに会った。カシウスは数人の兵士と共にまったく別人のようになり、彼女たちから少し離れた所に立っていた。そこへ隊長アベナダルも来た。カシウスは隊長が来たのを見て近づき、自分の眼がなおされた奇跡を報告した。そこに居合わせた人々の態度は非常に感動深く、厳かな真剣さに満ち、無言の愛にあふれていた。かれらは主の遺骸を十字架より下ろ仕事を始めた。 

ニコデモとヨゼフは、はしごを十字架の裏にかけ、大きな布を持って登って行ったその布には三本の紐がついていた。最初に主の御体を布で包み紐で縦木に結んだ。次にニコデモは右手を布で包み、それを紐で横木に結んだ。そして、うしろから釘の端に金具を当て釘を木から打ち抜き出した。釘はやさしくイエスの御手傷口から抜け落ちた。その後紐を外し御手をゆっくりと下ろした同じようにヨゼフ左手釘を抜き取り、左手を下した。その間、隊長アベナダルは足の大きな釘を非常に抜き取った。カシウスは抜き取られた釘を丁寧にまとめて、聖母のそばに置いた。 

次いでかれらは十字架の縦木に縛りつけてある三本の紐を上からほどいていった。こうして紐をほどくにつれ、救い主の体はその膝の所を持っていた隊長の方に下がって行った。一方ヨゼフとニコデモは主の上半身を腕支え、はしごを静かに用心深く下りるのだった。

イエスを十字架から下ろす光景は感動的であった。かれらはすべてをあたかも主に痛みを与えることを恐れるように、注意深く運んだ。かれらは主のご在世中に主に対し抱いていたあらゆる愛情と尊敬を聖なる遺骸に注いだ。居合わせたすべての人は注意深く一つ一つの所作を見守っていた。みな一言も言わなかった。働いている男たちも敬いの念に包まれて、あたかも聖なる儀式に仕えるかのように必要な事柄だけを低い声でささやいていた。

男たちは救い主の聖なる遺骸を聖母の胸に委ねた。女は苦しみのうちに待ちこがれながらそれを受け取られた。 

3 埋葬の準備 

聖母は広げられている敷物の上にお座りになり、神のおん子のもっとも聖なる頭を少し立てた膝の上にお支えになった。主の体は布を広げた膝の上に長く横たえられた。

聖母の苦しみはその愛と同様に大きかった。聖母は主の長い苦しみの間、主を少しもおいたわりすることが出来なかったが、今や大切な御子の体を再び腕に抱かれた。そして聖母は戦慄すべき虐待、恐ろしい傷を直接ごらんになった。聖母は主の血まみれの頬に口づけをされた。マグダレナは顔を主の足に押し当てて伏せていた。男たちは遺骸埋葬の準備ために丘を下って行った。兵卒たちは少し離れて立っていたが、頼まれるままに手伝いをしていた。

婦人たちは革の水袋を持っていた。またそこには炭火にかけられた水の入っているもあった。婦人たちは聖母とマグダレナにきれいな水と新しい海綿の入っている鉢を渡した。海綿は使うたびに革の容器の中にしぼられた。使った水も捨てずに革袋の中に集められた。

聖母は言い尽くせない苦しみのうちにも強い勇気に満ちておられた。女は聖なるお体を見苦しいままにして置かれずすぐに清め整え始められた。聖母はいばらの冠用心深く主の頭からはずした。冠を取りはずす時、頭にささりこんでいたトゲが新たな傷になるのを防ぐためにトゲを一本一本茨のから切り取らねばならなかった。いばらの冠は釘のそばに置かれた。

そして聖母は頭にささっている長いトゲの先を一本ずつ引き抜かれ、痛々しくもそれを周囲の人にお見せになった。一つ一つのトゲを記念として保存されるようにトゲは冠のそばに置かれた 

主の顔は見分けられないほど血と傷のために変わり果てていた。乱れた髪、ひげにはすっかり血がこびりついていた。聖母は頭と顔を洗われ、髪にこびりついている血をぬれた海綿でしめしてほどいた。次に聖母小さな布を人さし指に巻きつけ、聖なる頭、口、歯、唇なを洗われた次に髪をとかされた。

聖なる頭が洗われる、苦痛に満ちた聖母は、おん子の頬に接吻をさた。次いで同じように聖なる体を洗われた。まずイエスが十字架をになわれた肩 - その肩は大きな傷でずたずたに切られていた - 次ぎに救い主の一方の脇腹から他のがわに貫いた大きな槍の傷痕のある心臓聖マリアはこれらの傷をすべて洗われた。マグダレナ聖母を手伝った。

次にすべての傷に油が塗られた。聖婦人たちは聖母の向かい側に座り、聖母に油の入った小箱を手渡すと、聖母はそれから少しずつ何度も油を取り出されては傷の中につめ、また塗られた。聖母イエスの両手を左手に持たれうやうやしく接吻をし、大きな釘の傷痕に香料をつめられ。兵卒たちはときどきやって来て新しい水を運んだ。次に聖母はおん子の傷つき裂かれた目を閉じ、ご自分の手をしばらくその上に置かれた。それから救い主の口を閉じ、その頬の上に泣き伏された。

すでにヨゼフとニコデモはそこに立って待っていた。ヨハネは進み出て聖母に主の埋葬が出来るように主の体から離れていただきたいとお願いした。安息日がすでに迫っていた。聖マリアはおん子の遺骸をもう一度心をこめて抱きしめられ、胸を打つ言葉のうちに主からお離れになった。男たちは聖母の膝から主の体を、その横たわりなっている布といっしょに持ち上げ、少しばかり山を下った所へ運んだ。 

そこにはバルサムを塗る準備がすっかり整えられていた。かれらは遺骸を下ろし、丁寧に手をかけ、まっすぐに伸ばした。十字架上で胴と膝は曲がったまま、硬直していたからである。それから長い布を腰に巻き、下半身を薬草の束のようなもので埋めた。その上にニコデモが箱に入れて持って来た粉をまいた。それからさらに傷にもう一度油を塗り、香料をふりかけ、足まで薬草の束を置き、その上から布を巻きつけた。

聖母マリアは頭のそばにひざまずいて、それまでマントの下で首に巻いておられた布を、イエスの頭の下に置かれた。それから聖母は他の婦人たちといっしょに、その布に薬草の束とその粉末を詰められた。次ぎに聖母は布で頭固く巻いた。

マグダレナはもう一度小瓶からよい香りのする物を主の脇の傷の中に注ぎ込んだ。男たちは硬直したイエスの腕を腹部の上に組み合わせた。そしてすべてを香料で詰め、ご遺骸を胸の所まで大きな布で包んだ。それから一方の肩に広い巻布をはさみ、聖なる体に手をかけ持ち上げながら頭と体全体を巻いた。

最後に聖遺骸をアリマテアのヨゼフが買って来た大きなメートルほどの長さの布下のにおいた。それから御頭折り返しとして体を包んだ。 

4 イエス、墓に葬られる

男たちは聖なる褐色の布をかぶせ、担架にのせた。前の方をニコデモとヨゼフが持ち、うしろをヨハネとアベナダルが持った。そのあとに聖婦人が続いた。最後にカシウスと兵卒が従った。たいまつを持った二、三の兵卒が先に行った。暗い墓穴の中では灯が必要であったからである。一同は低い悲しげな調子で詩編を唱えつつ歩を運んだ。一同が墓岩の前に着くと、担架のおおいを取り、聖遺骸を下ろした。

新しい墓穴は、ニコデモの下僕が掃除をし香をたきこめてあった。それは岩を実にみごとに彫り込んで出来たものであった。洞の中に遺骸台ありそこには包んだ屍の形が彫り込んであった。

聖婦人たちは墓の入口に向かって座った。四人の男は主の体を洞の中に運び込んで下におろした。それから彫り込みのある遺骸台の一部に香料を満たした。次ぎに布をその上に広げて聖遺骸を置いた。かれらは涙のうちに愛をこめて主を抱擁してから洞を出た。

そののち聖母は一人で中へはいられた。聖母が、おん子の遺骸の上に泣き伏された。聖母が墓を出ると、マグダレナが急いで中へはいった。女は庭で枝や花を折り集めていたが、それを遺骸の上にまき散らした。女はまたも悲しみつつ、主の足を抱いた。その時、ほかの男たちが急ぐように注意したので、女はふたたび婦人たちの所に戻って来た。

そのあと扉をしめ墓を封じるために大きな石を置いたその大きな石は非常に重く、かれらは棒をテコにしてそれをころがした。

すでに安息日が始まっていた。ニコデモとヨゼフは庭から城壁の方にぬける小さな門を通って街の方に行った。

兵卒らは城門を警備している一隊に加わった。カシウスは見聞きしたことを全部報告するため、ピラトの所に行った。ピラトはその話を内心恐怖をもって聞いていたが、外面はカシウスを狂信者としてあしらった。

聖母は連れといっしょにふたたびカルワリオにのぼり、そこで祈られてからまた小さな門を通って街の方へお帰りになった。