キリストの受難4 十字架の道

2019年10月31日

「キリストの受難を幻に見て」を短くしています。

1 イエス、十字架をになわれる

獄吏たちは主を広場の中央に引いて行った。そこに奴隷たちが十字架を運んで来て、主の足もとに投げおろした。十字架が主の前に置かれると、主はひざまずき、伏してそれを抱き、三度接吻された。その時ついに始まる人類救済のために感動的な感謝の祈りを低く唱えられた。

しかし、獄吏たちは主を十字架から引き離し、主の右の肩に十字架を置いた。主はこの重荷の下に身を屈めてひざまずかれた。主が祈りをしてられる間に他の獄吏たちは二人の盗賊の背に十字架の横木をのせ、両手をしっかりとそれに縛りつけた。

そのときピラトの騎兵隊のラッパが鳴り渡った。すると一人のファリサイ人「さあ、今となっちゃ、結構なお話もおしまいだ。さあ、みな、早くこいつを片づけろ。前進前進言っあと、獄吏たちはイエスを引っぱり上げた。

獄吏たちは十字架の下のはしに二本の綱を縛りつけていた。二人の獄吏がそれを持って、十字架が地面から浮くように支えていた。四人の獄吏がまた主の帯から出ている四本の綱を握った。このようにイエス十字架をにない、歩み行かれた。

先頭はラッパ手であり、ラッパを拭きながら、処刑を声高々と告げながら進んだ。かれの二、三歩うしろから綱、くぎ、金槌、くさびなどの刑執行のためのいろいろの道具の入っているいくつかのかごや、強盗の十字架の幹運ぶ者たちが続いた。そのあと乗馬のファリサイ人が続いた。次にピラトの書いた捨て札を胸にかけ、茨の冠を棒の先にひっかけて肩にかついでいる者が続いた

さてその次にわれらの主、救世主が重い十字架の下にかがみながら、疲れ果て、よろめき、さんざんにむち打たれ、たたかれながら続かれた。昨夜の晩餐以来主何の飲食も取られず、また一睡もされなかった

そして絶え間ない虐待のため、血を失い、その傷、熱、渇きの苦しみ、また言葉に絶する心の苦痛に主の疲れは極みに達していた。

主は傷ついた裸足で、右手は重い荷をしっかりと持ち、左手で時々歩みを妨げる長い上衣をかき上げた。おん手は長い間縄に縛られていたため、傷つき、腫れ上がっていた。

お顔は腫れ、血におおわれていた。髪やひげは乱れ、血がこびりついていた。重い十字架と綱が傷ついたお体の上から衣を押しつけ、衣服は傷口にぴったりとついた。

このような苦しみの中でさえも、主は絶えず祈られた。十字架の根もとを綱でつり上げていた二人の獄吏は時々綱をひっぱたり、ゆるめたりして、十字架を傾け主の苦しみを増した。

主の両側には槍を持った何人かの兵士が歩いていた。そして主の後ろに、二人の盗賊が続いた。かれらは一人ずつ二人の獄吏に腰縄で引かれていた。二人とも与えられた酒で少し酔っていたが、よい盗賊はまったくおとなしくしていた。悪い盗賊はこれに反して、怒ったり暴言吐いたしていた。盗賊の後から乗馬のファリサイ人の一群がつづいた。これが行列の最後尾であった。

その後ろ長い距離をおいてピラトの一隊が続いた。ここにも一人のラッパ手が騎馬のって先頭に立っていた。次に武装したピラトが馬に乗り、士官と騎兵隊に護衛されて前進して来た。うしろに三百人の歩兵が続いた。

イエスは裏町の非常に狭い路地を引かれ行かれた多くのユダヤ人たちは、過越しの羊をほふるために家に帰ったり、神殿に向かった。しかし十字架の刑を見ようとしていた者はまだ大勢いた。かれらは急いで回り道をして先へ周り、行列を見るため、路地に立ち止まるのであった。

主が、狭い道を通る途中に、窓や壁から悪人たちが主を嘲り、主に汚いものや汚水を投げつけた大人にそそのかされて子供たちまでも悪口を言ったり、嘲ったりしながら、主の歩まれる所へをばらまいた。

2 初めてお倒れになる

狭い道は少し広くなり登り坂となりはじめた。そこには道の真ん中に、またがないと進めないほどの高い石あった。イエスは重荷をになわれて、ここまで来られた時、もはや一歩も進むことが出来なくなった。しかし獄吏たちは主を無慈悲にも引っ張った。主はこの高い石につまずき、倒れた。重い十字架は主のかたわらにころげた。

十字架を縄で引いていた獄吏たちは主を呪い、足げにした。行列は止まり、騒ぎが起こった。主は助け起こしてくれる者を求められたが、空しく手を差し伸べるだけであった。主は静かに言われた。「ああ、間もなくすむことだ」と。そして祈られた。ファリサイ人たちは怒鳴った。「起きんか。立ち上がらせろ。ぐずぐずしていると死んでしまうぞ」

神の助けによって強められ、主が頭をあげるとすぐに、悪魔のような悪者たちは主を助け起こすどころか、茨の冠をふたたび主にかむらせた。そして虐待を加えながら主を立ち上がらせ、ふたたび十字架をその肩にのせた。

主は茨の冠が十字架にあたらないように、茨で傷つけられた顔をいっそう曲げなければならなかった。それは恐ろしい苦しみであった。このようにして主は、新たに募る苦しみを忍びつつ、登り坂をよろめきながら歩まれた。 

3 悲しめる聖母

聖母はヨハネに、愛すべきおん子の行列に出会える場所へ連れて行くように願われた。聖母が青ざめ、目は赤く泣きはれ、恐ろしさのあまり震えておられた

すでに街角にざわめき、叫び、ラッパの響き、怒鳴り声などが聞こえてきた。マリアは祈った。そしてヨハネにお尋ねになった。「わたしは見た方がいいでしょうか。それとも向こうへ行きましょうか。それに耐えることが出来ましょうか」ヨハネは答えた。「もしとどまっていなければ、あなたはさらに激しく苦しまれるでしょう」

そしてしばらく留まっていた門の下から二人は出て行った。二人は道を右手に見下ろした。その道はそこまで登り坂となって、そこからふたたび平らになっていた。行列はまだ八十歩ほど離れていた。

刑執行の道具を運ぶ悪党たちが歩いて来るときに、聖母は激しく震えておられた。一人の悪党がまわりのに尋ねた。「あの人はひどく悲嘆にくれているようだが一体何者だい」するとそのうちの一人が答えた。「あれがガリラヤ人のおふくろさ」悪党たちはこれを聞いて嘆き悲しむ聖母を指さしながら嘲笑った。そのうちもっとも卑しい一人の悪党は、十字架の釘を手に持って聖母の顔の前見せつけた

しかし聖母はイエスの方をごらんになり、お苦しみのあまり、門の柱に寄りかかられた。聖母はまるで死人のように青ざめた。騎馬のファリサイ人が通りすぎた。その次に捨て札を持った者が続いた。

ああ、その数歩後に神のおん子、彼女の子、至聖なるお方、救世主はかがみ、よろめきながら進んで来られた。茨の冠をかむられた頭は痛々しくも横に曲げておられた。主は血だらけの眼をもって、悲しみにあふれるおん母をじっと、同情をこめてごらんになった。その瞬間主はよろめき、十字架の重荷でがっくりと膝と両手をつかれた。

それを見た聖母は兵卒、獄吏に目を留めることなく、ただご自分の愛する哀れな虐げられたおん子だけに目を留められた。聖母は獄吏の間を走りぬけ、イエスのに膝をつかれ、かれを抱きしめられた。

獄吏たちは罵倒し、嘲った。その一人は言った。「おまえがもっとよくしつけりゃ、こいつはおれたちのご厄介にならなかったろうに」しかし幾人かの兵卒は何か胸にせまるものを感じた。兵士は聖母を押しやった。獄吏たちはだれも聖母に触れなかった。

ヨハネと婦人たちは聖母をお連れしたが、聖母は前に待っておられた門の下まで来られると、苦しみのあまりがっくりと膝をついてしまわれた。その間、獄吏たちは主を再び引っぱり起こして十字架をその肩にのせ、カルワリオへと向かった。 

4 キレネのシモン 

行列は広い街路を進み、古い城門をまがった。この門の前には広場があり、三方へ道が分かれていた。そこでイエスは再び大きな石につまずき、お倒れなった。十字架はまた転び落ちた。主はいたましくも地面に横たわり、もはや、起き上がることはできなかった。

行列を指揮しているファリサイ人たちこれを見て兵卒たちに言った。「こんなことでは生かしてこいつを引いては行けんぞ。だれかこの十字架を運ぶ手伝いを探して来い」

そこへちょうど向かい側から、柴の束をかかえながらレネのシモンが近づいて来た。かれの三人の息子もそばにいた。兵卒たちはその身なりから、かれが異教徒であることを知った。そしてかれを捕らえ、ガリラヤ人の十字架をになうように命じたかれは抵抗したが、逃げることできなかった。

かれはいやでたまらなかったが、兵卒たちは力ずくで強いた。かれの子供たちは大声で泣き出した。この男を知っている二、三の婦人が子供たちをなだめた。シモンは激しい嫌悪を覚えた。イエスは恐ろしくみじめに変わり果てていた。その着物はきたないくよごれていた。

ついにシモンは主をお助けしないといけなくなった。かれはイエスのうしろに回り、イエスに重みがかからないよう十字架をになわなければならなかった。そうしてこのいたましい行列は再び動き出した。しかしシモンは進むにつれ、間もなく深い感動をうけことになる

5 ベロニカ

シモンが十字架をにない、主をお助けして約二百歩ほど進んだ時、立派な家から気品ある婦人が、一人の少女の手を引き行列に向かって急いで来た。ベロニカである。彼女は、苦しまれている主を途中で力づけるために、薬味の入った高価なぶどう酒を家で用意した。

女はヴェールをかむって道に出た。肩には布きれをかけていた。九才ばかりの少女が近くに立ち、ぶどう酒の入った壺を布で隠し持っていた。先行の者はベロニカをいくら押しのけようとしてもむだであった。女は愛と同情で全く改心したようになっていた。女は少女を連れて野次馬の列を通りぬけ、兵卒や獄吏の群れの間をくぐってイエスのところまで進み寄った。

ベロニカはひざまずき、「どうぞ主よお顔をお拭きするのをお許し下さい」と懇願しつつ布きれをささげた。イエスは左手でその布をとられ、手の平で尊きお顔をそれに押し当てた。そして感謝しつつそれをベロニカにお返しになった。

女はそれに接吻し、マントの下、胸のあたりに押しこみ立ち上がった。同時に少女は酒壺を恐る恐るささげた。しかし獄吏や兵卒らの罵りのためにそのぶどう酒をイエスに渡すことができなかった。 

その時までかれらはベロニカのすばやい大胆な行動に圧倒されていた。それで女は主に汗拭きをささげることができたのである。騎馬のファリサイ人、獄吏たちは行列の停止させられたこと、そして特にイエスに対する公然とした尊敬の行為にすっかり憤慨した。

かれらは直ちに再び主を殴りつけ、引きずり始めた。その間にベロニカは子供を連れて家の中に逃げ込んだ。

彼女は家に入ると、汗拭きをとり出して、テーブルの上にひろげた。その瞬間、彼女は気が遠くなり、ばったり倒れた。子供は壺を持ったまま泣きながらそのそばにひざまずいていた。そこへ家人が入って来た。そしてその光景を見た。

もまたひろげてある布を見た。それにはキリストの血だらけの顔が驚くほどはっきりと写し出されていた。

は非常に驚き、ベロニカを起こし、主のお顔を女に示した。女は悲しみと慰めとに満たされ、布の前に伏しながら叫んだ。「今こそわたしは喜んですべてをささげましょう。主はわたしに思い出を下さったのですから」。

6 嘆くエルサレムの娘たち 

城門に至る道は、ややけわしかった。城門のアーチをくぐり、次いで橋を渡り、最後に再びアーチをくぐらねばならなかった。行列がそこまで来ると、獄吏たちはますますはげしくせきたてた。

城門のすぐ前のデコボコした道に、大きな水たまりがあった。残酷な獄吏たちは主を前に引っぱった。シレネのシモンは、水たまりを避けてよい道を通ろうとした。それで十字架の向きが変わってしまい、哀れなイエスは四度目に倒れた。主はその汚い水たまりにころんだ。シモンは辛うじて十字架を支えた。

イエスはとぎれとぎれであったが高い声で叫ばれた。「ああ、エルサレムよ、わたしはどれほどお前を愛したことか。めん鳥が雛を羽の下に集めるように、わたしはお前の子らを何度集めようとしたことか。だが、お前たちは応じようとしなかった」。

しかしファリサイ人は主の方に向き直って嘲笑った。「治安攪乱者のやつ。まだ物足りないと見えて馬鹿話をやっているぞ」かれらは主を打ちつけ、その水たまりから引きずり出した。

キレネのシモンはこの乱暴にすっかり憤慨して叫んだ。「もしおまえたちが乱暴をやめなければ、たとえおれを殺そうとも、この十字架を投げ出してしまうぞ」 

城門のすぐ前からカルワリオに登る所は狭いデコボコ道となった。この分かれ道の所に杭が立っていた。それには主および二人の盗賊の死刑判決の板が取り付けてあった。そこに泣き悲しんでいる婦人の一群がいた。彼女たちは娘たちと子供連れの婦人たちでエルサレムから行列に先立って来ていたのである。 

ここから主は失神したようになって身をかがめられた。体はすっかり地面についてしまわなかったが、シモンは十字架を地面に下ろし、主を支えようとして近寄った。主はシモンに寄りかかられた。これで十字架をになって救い主がお倒れになったのは五回目である。

婦人や娘たちはこの恐ろしい光景に悲嘆と同情の大きな叫びをあげた。するとイエスはその方に向いてこう仰せになった。

「エルサレムの娘たち、わたしのために泣くな。むしろ、自分と自分の子供たちのために泣け。人々が、『子を産めない女、産んだことのない胎、乳を飲ませたことのない乳房は幸いだ』と言う日が来る。そのとき、人々は山に向かっては、『我々の上に崩れ落ちてくれ』と言い、丘に向かっては、『我々を覆ってくれ』と言い始める。『生の木』さえこうされるのなら、『枯れた木』はいったいどうなるのだろうか」。

行列はここで一時とまった。まずならず者たちが拷問道具を持ってカルワリオの山に登った。それにピラトの派遣した百人のローマ兵が続いた。

7 ゴルゴダのイエス

さて救い主は城壁とカルワリオ山の間の、石の多いデコボコ道を駆りたてられて進まれた。ここでイエスは倒れた。六度目である。しかしかれらはますます激しく打ちたたきつつ、主を頂上に至るまで駆り立てた。そこで主はまた倒られた。これで七度目である。

キレネシモンは怒りと同情で心が張り裂けんばかりであった。かれは主を助け起こそうとした。しかし獄吏たちはかれを突き飛ばしたり、侮辱したりしてわきに追いやった。

ファリサイ人たちはよい道を馬で登って来た。カルワリオ山の頂上は低い土塀に囲まれていた。百人のローマ兵たちもそこに整列した。二、三人の者が二人の強盗の見張りをしていた。強盗らはまだ頂上まで連れて来られずに、下の方であおむけに倒されていた。大勢いた民衆の大部分は、汚れることを気にかけない卑しい人々であった。かれらは周囲の壁に、あるいは附近の高い処に立っていた。

主が十字架と共に刑場に連れ込まれると、シモンが帰された。獄吏たちは倒れているイエスを縄で引っぱり起こした。そしてイエスの十字架の横木の縄をほどいた。

イエスはみじめにも残酷な生傷におおわれ、血だらけの青ざめた姿で刑場に立たれた。かれらは主をあざけりながら言った「わしらはあんたの王座の寸法を取らねばなりませんからねえ。ヘエ王さま」

しかし主は自ら十字架の上に横たわれた。主はいたましくもすばやくされたので、かれらは主を十字架に誘導す必要なかったかれらは主を十字架の上に引きのばして、手と足の場所にしるしをつけ、再び主を引きずり起こした。

そして約七十歩ほど離れた山腹の岩穴に連れて行き、扉を開けて主を無慈悲にもそこへ突き落とした。もし奇跡がなければ膝を固い石床で打ち砕くところであった。かれらは扉をしめて見張りを置いた。 

獄吏たちは準備をはじめた。十字架をたてる穴を掘り、主の十字架に足台をつけ、十字架に釘穴を開け、盗賊たちの十字架の幹を左右に置いた。強盗たちの両手縛りつけてある横木は、あとになって磔刑の時、幹の上のはしのすぐ下に釘付けにされた。そして十字架を縄で引き上げるように、十字架を置いた。