聖書入門2 族長物語

■目次

1章 アブラムの召命

神の救済の物語は、一つの民の確立から始まる。その民を通して、全地の民が祝福に入ることになる。すべては子に恵まれないアブラムとサライから始まった。 

1 アブラムの召し出し

アブラムは紀元前2166年頃、メソポタミアのウルで生まれる。その後、アブラムの父テラは息子アブラムとその妻サライら、家族を連れて故郷のウルを離れ、カナンの地に住んだ。

アブラムの生まれたテラの家は、唯一の真の神を礼拝していた(もっともテラ自身もメソポタミアで異郷の神に仕えていた→ヨシュア24・2)。

アブラムが75歳の時に神託を受ける。

「あなたは生まれ故郷、父の家を離れて、わたしが示す地に行きなさい。わたしはあなたを大いなる国民にし、あなたを祝福し、あなたの名を高める、祝福の源となるように。あなたを祝福する人をわたしは祝福し、あなたを呪う者をわたしは呪う。地上の氏族はすべて、あなたによって祝福に入る。」     

創世記12・1~3

神は驚くべき約束をした。サライは不妊であったが、アブラムを「大いなる国民にし、祝福する」(創世記12・2)と告げたのである。

またアブラムの名を高めることを約束し、アブラムは「祝福の源となる」(創世記12・2)と語った。アブラムを祝福する者はすべて祝福され、彼を呪う者はすべて呪われる。

さらには「地上の氏族はすべて、あなたによって祝福に入る」(創世記12・3)という驚くべき約束が加えられた。

そのとき75歳のアブラムはどこに行くのかしらされていなかったにもかかわらず、ハランの地を離れた。荷物をまとめ、慣れ親しんだものをすべて後にし、妻のサライ、甥のロト、そして僕たちと共に出発したのである。

2 約束の地

アブラム一行はハランを出て南に向かい、カナン地方の中心に位置するシケムの町に到着した。 アブラムの一行はモレの樫の木 (古くからシケム付近にあった聖所・申命11・30)のそばに直営した。そのときアブラムは再び神託を受ける。

「あなたの子孫にこの土地を与える。」

創世記12・7

神はアブラムに、アブラム自身ではなく、アブラムの子孫にこの土地を与えることを約束する。

アブラムは祭壇を築き、そこから旅を続けネゲブ地方へ移った。この地域は雨のほとんど降らない半砂漠の土地で、この後、飢饉が起こると、アブラムとその家族はほとんど食料を得ることができなくなった。

3 エジプトへ移住する

カナンで飢饉が起こり、アブラムは一時エジプトに移住する。アブラムは、美しい妻サライを奪おうとして、エジプト人が自分を殺すかもしれないことを恐れた。そこでサライを妹と称した。これは嘘をついたのではない。というのは近い血縁関係にあったので、彼女は妹でもあったからである。

彼は、彼女が妻であることを否定しなかったが黙っていて、妻の貞操の保護を神に委ね、人間のしかける罠を警戒した。それは、彼が警戒しうる限りの危険をもし警戒しないとすれば、神に望みを託したというよりも、神を試みたことになるからである。

結局はアブラハムが警戒していたことが起こった。すなわち、彼女を自分の妻にしたエジプトの王ファラオは非常な苦しみを受け(おかげでサラの貞操は守られた)、彼女を夫に返したのである。

ファラオはアブラムを呼び出し、自分を欺いたことを責め、二人を宮殿から立ち去らせた。

4 ロトとの別れ

アブラムとロトの家畜が増え、牧草地と水を巡って、アブラムとロトの家畜を飼う者たち同士の間で争いが起こった(創世記13)。アブラムとロトが一緒に住むには土地が狭すぎたのである。

アブラムは家族間の争いを避け、先にロトに場所を選ばせ、互いに別の道を行くことを提案する。ロトはソドムとゴモラを選び、アブラムはカナンに留まることになる。

5 三度目の神の神託

アブラムはロトと別れた後、三度目の神託を受ける。

「さあ、目を上げて、あなたがいる場所から東西南北を見渡しなさい。見えるかぎりの土地をすべて、わたしは永久にあなたとあなたの子孫に与える。
あなたの子孫を大地の砂粒のようにする。大地の砂粒が数えきれないように、あなたの子孫も数えきれないであろう。さあ、この土地を縦横に歩き回るがよい。わたしはそれをあなたに与えるから。」     

創世記13・14~18

神はアブラムに二つのことを約束された。1、イスラエル民族だけでなく、信仰により彼に従う人の父となること、2、カナンの地を世の終わりまで与えること

ここで「世の終わりまで」は「世」とこの箇所で、来るべき永遠の世は現世が終わる時に始まる、と私たちが信仰に従って解釈すれば迷うことはない。

6 ロトの救出

ロトは南のソドムとゴモラに向かったが、町周辺は堕落した不穏の土地であった。そこにメソポタミアの4王の同盟が攻撃をしかけてくる(創世記14)。土地の5王は敗走し、ロトも家族も財産ごと奪われる。

甥の窮地にアブハムハ318人の戦士を率いて追跡し、侵略者に追いついた。アブラムは夜襲をかけて、奪われた財産をすべて取り戻し、ロトとその家族を救出する。

彼は、ソドムの王たちのために勝利をおさめたが、彼によって勝利を得た王の差し出した戦利品を受け取らなかった。

彼がいと高い神の祭祀であるメルキゼデクによってパンとぶどう酒によって祝福されたのはその時である(創世記14・18~20)。

2章 神との契約

1 アブラムは主を信じた。主はそれを義とされた

アブラムは神から「大いなる民にする」と約束されたが、時がたってもサライには子が生まれなかった。アブラムはロトの救出後、幻の中で神託を受ける。

「恐れるな、アブラムよ。わたしはあなたの盾である。あなたの受ける報いは非常に大きいであろう。」 

創世記15・1

神はアブラムに「恐れるな」と告げ、彼を守り、報いることを約束した。

しかし、子がいないため、家の僕が後継者になると思うのは当然であったので、家で生まれた奴隷のエリエゼルが後継者になるだろうと答えた。

「その者があなたの跡を継ぐのではなく、あなたから生まれる者が跡を継ぐ。」 主は彼を外に連れ出して言われた。「天を仰いで、星を数えることができるなら、数えてみるがよい。」そして言われた。「あなたの子孫はこのようになる。」 

創世記15・4、5

神はすぐさま、その奴隷ではなく、アブラハム自身から生まれる後継者を約束し、空の星のように数えきれないほどの多くの子孫を約束された。

アブラムは主を信じた。主はそれを彼の義と認められた。

創世記15・6

アブラムはもはや子ができるような歳ではなかったが強い信仰を示し、神が約束を守ってくれると信じた。

神はアブラムの信仰を義と認められた。そのとき彼はまだ割礼を受けていなかった(ローマ4・3、9~12) 。

神はこの信仰に応えて、彼にカナンの地を与えると再び宣言する。

2 神の契約

アブラムはカナンを与えるという神の約束に対してしるしを求めた。

そこで神は三歳の雄牛と三歳の雌山羊と三歳の雄羊を一頭ずつ、それに山鳩と鳩の雛をもって来るように命じた。アブラムは慣れ親しんでいた契約の儀式に従って、鳥以外の動物を二つに切り裂き、それを互いに向かい合わせに置いた。

日が沈み、アブラムが深い眠りに落ちると、神は再び話しかけ、すぐにではないが、子孫がカナンの地を請け合った。

その言葉を確認するために、神はアブラムと契約を結び、煙を吐く炉と燃える松明として現れ、切り裂かれた動物の間を通り過ぎた。

アブラムは犠牲の間を歩くことを要求されなかったが、それは子孫に土地を与えるという約束は神がする約束だからである。 (創世記15)

★契約 

古代世界において、契約には強い拘束力があった。契約を破ることは死を意味していた。聖書に書かれているように契約の当事者は動物を二つに裂き、その間を歩くという儀式を行った。これは、「もし契約を破ったら、この動物のようになる」という誓いを象徴するものであった。 

3 ハガルとイシュマエル

神の約束にもかかわらず、サラとアブラハムとの間には子供が生まれなかった。

当時子供が生まれないことは非常に不幸なことと考えられていた。大きな罪を犯し、神に呪われて不妊になったと考える者もいた。

サライの焦りは日増しに高まっていき、アブラムが85歳のとき、彼女は自分のエジプト人の女奴隷ハガルをアブラムに与え、自分に代わって子供を産ませることを提案した。

これは当時において一般的なことで、ハガルはサライの奴隷であったので、主人が望むようにしなくてはならなかった。サライは神が自分に子供を授けてくれなのは、ハガルを通して子を授けることなのかもしれないと考えた。

アブラムはサライの提案を受け入れ、ハガルは妊娠する。しかしハガルは自分が妊娠したことがわかると、サライをあなどるようになる。

サライは腹を立てて、すべてはアブラムのせいだと非難する。アブラムがハガルはサライの奴隷なのだから好きに扱えと答えると、サライはハガルにつらく当たったため、ついにハガルは逃げ出してしまう。

ハガルは南に向かった。途中、砂漠の泉のほとりで天使と出会う。天使はサラのところに戻り、従順に仕えるるように告げ、「わたしは、あなたの子孫を数えきれないほど多く増やす」(創世記16・10)と約束する。

天使はハガルが身ごもっている子は男の子で、その子を「神は聞く」という意味のイシュマエルと名付けよと告げた。

天使はイシュマエルが自由を愛し、飼いならされない野生のロバのようになり、兄弟と絶えず敵対して暮らすようになると預言し、「彼があらゆる人にこぶしを振りかざすので、人々は皆、彼にこぶしを振るう」(創世記16・12)とハガルに告げる。

これはイシュマエルの子孫についての預言である。その子孫は後に他の民族と絶えず抗争を繰り返すようになる。

ハガルは神を「わたしを顧みられる神」と呼び、ハガルが天使と出会った泉はベエル・ラハイ・ロイ(わたしを顧みられた生ける神の泉)と呼ばれるようになる。

ハガルはサライとアブラムのもとへ帰り、やがてアブラムの子を産んで、イシュマエルと名付けた。アブラムはその時86才であった。

3 アブラハム契約

そこからさらに13年が過ぎ、アブラムが99才、サライが90才のとき、神が再び姿を現し、二つのしるしによって アブラムとの契約を再確認する。

「これがあなたと結ぶわたしの契約である。あなたは多くの国民の父となる。あなたは、もはやアブラムではなく、アブラハムと名乗りなさい。あなたを多くの国民の父とするからである。わたしは、あなたをますます繁栄させ、諸国民の父とする。王となる者たちがあなたから出るであろう。わたしは、あなたとの間に、また後に続く子孫との間に契約を立て、それを永遠の契約とする。そして、あなたとあなたの子孫の神となる。わたしは、あなたが滞在しているこのカナンのすべての土地を、あなたとその子孫に、永久の所有地として与える。わたしは彼らの神となる。」     

創世記17・4~8

一つ目は、名前をアブラムからアブラハム(父は高められるの意味)に変えさせたことであった。これはアブラハムが多くの王や国民の父になるという約束を強調し、カナンの地が永遠に子孫のものになることを再確認するものであった。

「だからあなたも、わたしの契約を守りなさい、あなたも後に続く子孫も。あなたたち、およびあなたの後に続く子孫と、わたしとの間で守るべき契約はこれである。すなわち、あなたたちの男子はすべて、割礼を受ける。…包皮の部分を切り取らない無割礼の男がいたなら、その人は民の間から断たれる。わたしの契約を破ったからである。」   

創世記17・9~14

次に、神は自らの契約に新しいしるしを設けた。アブラハムの家に属する男性すべてと、これから生まれる男性の子孫は8日目に割礼を受けなければならないとされたのである。これを行わない者は契約から除外されることになった。(☆割礼は新約の時代に廃止される)

4 イサク誕生の約束

神は続けて言った。

「あなたの妻サライは、名前をサライではなく、サラと呼びなさい。わたしは彼女を祝福し、彼女によってあなたに男の子を与えよう。わたしは彼女を祝福し、諸国民の母とする。諸民族の王となる者たちが彼女から出る。…あなたの妻サラがあなたとの間に男の子を産む。その子をイサク(彼は笑う)と名付けなさい。わたしは彼と契約を立て、彼の子孫のために永遠の契約とする。…わたしの契約は、来年の今ごろ、サラがあなたとの間に産むイサクと立てる。   」    

創世記17・15~21

神は、またアブラハムの妻サライの名もサラ(女君の意味)に変えた。そして来年の今頃サラから子供が生まれ、その名をイサクと名づけるよう命じる。

アブラハムが笑った(創世記17・17)のは、喜ぶ者の歓喜の姿であって、信じない者の嘲笑ではない、また彼が言ったのは疑う者の言葉ではなく、感嘆する者の言葉である。 

3章 ソドムとゴモラ

その後、アブラハムが マムレの樫の木のそばにいたとき、神(キリスト)と二人の天使が現れた。

神と二人の天使はアブラハムとサラのもとに訪れ、サラが一年後にアブラハムの子供を産むと告げたのち、出発する。神はソドムとゴモラはあまりにも罪深く、その悪評は天に届くほどなので、二つの町を滅ぼすつもりであるとアブラハムに告げた。そこにはアブラハムの甥ロトが住んでいた。 

1 神と交渉する

アブラハムは神の正義に訴えかけた。「神は正しい人と罪深い人を区別せずに町全体を滅ぼしたりしないはずだ。ソドムに正しい人が50人いたら、町は救われるのではないか」と訴えかけた。これに対して神は同意する。

しかし、アブラハムは引き下がることなしに、さらに、正しい人が45人であったなら、神はどうするつもりかと尋ねる。アブラハムはさらに続けて、40人、30人、20人、10人と人数を減らして、正しい者がいた場合について神に尋ねた。

神はその都度、アブラハムに同意し、最終的にソドムに正しい人が10人いれば、町を滅ぼすことはないと告げる。

2 ソドムでの歓迎

神は二人の天使をソドムに送った。町に到着したとき、彼らは門のところでアブラハムの甥ロトと出会う。ロトはその見知らぬ旅人を家に招き、食事と一晩の宿を提供した。

天使はそれを受け入れたが、夜寝床に就く前に町中の男が家を取り囲んだ。男たちはその客を外に出し、性交させるように求めた。

ロトは拒絶したが、男たちは諦めず、扉を押し破ろうとした。そこで天使は外にいる男たちの目をくらませ、ロトに向かって、町を滅ぼそうとしているため、急いで家族を集めて町を出るように告げた。

しかし、ロトの婿はロトが冗談を言っていると思い、町を離れようとしなかった。夜が明けるころ、再び天使は町を出るようにロトを促した。

ロトはためらっていたので、天使は彼と彼の妻、そして二人の娘の手をつかみ、急いで町の外に連れ出した。神は山に到着するまで走り続け、後ろを振り向かないように命じた。

3 悲劇的な最後

太陽が昇ったとき、燃え盛る硫黄がソドムとゴモラに降り注ぎ、町とその辺り一帯に住む人々を滅ぼした。そして、悲劇がロトを襲う。彼の妻が神の命令に背いてソドムとゴモラの方に振り返り、塩の柱となってしまったのである。

翌朝、アブラハムは二つの町の方角に目を向けると、濃い煙が空に立ち上っていた。ロトは救い出され、アブラハムは神の裁きが下されたことを知ったのである。

4章 イサクの奉献

1 イサクの生誕

「アブラハムはは根気よく待って、約束のもの(イサク)を得た」(ヘブライ6・15)。 

神が男の子が生まれたら付けるようにアブラハムに告げていた名、イサクは「彼は笑う」という意味である。神の命じた通り、イサクは8日目に割礼を受けた(創世記17・12)。

やがて成長したイサクをからかったイシュマエルはサラの怒りを招き、サラの女奴隷であった母親のエジプト人のハガルと共に追い出されてしまう。 

2 アブラハム、試される

数年後、アブラハムは神から信じられない命令を受ける。

「あなたの息子、あなたの愛する独り子イサクを連れて、モリヤの地に行きなさい。わたしが命じる山の一つに登り、彼を焼き尽くす献げ物としてささげなさい。」

創世記22・2

神はアブラハムにイサクをいけにえとして献げなさいと命じる。アブラハムは、疑念があったにせよ、翌朝、二人の召使を連れてイサクと出発した。

3日目にモリヤの地に近づくと、アブラハムは召使たちをそこに待たせ、イサクが薪を運び、アブラハムは火と刃物をもって先に進んだ。

イサクは犠牲として献げる動物はどこにいるのかと尋ねるが、神の命令を信じるアブラハムは、「わたしの子よ、焼き尽くす献げ物の小羊はきっと神が備えてくださる」(創世記 22・8)と答え、二人は歩み続けた。

3 神の介入

モリヤの地に着くと、アブラハムは石の祭壇を築き、その上に薪を並べた。それからイサクを縛って祭壇に横たえると、すばやく刀を手に持った。その瞬間、まさにぎりぎりのところで、神は天使を通して呼びかけ、アブラハムを止めた。

「その子に手を下すな。何もしてはならない。あなたが神を畏れる者であることが、今、分かったからだ。あなたは、自分の独り子である息子すら、わたしにささげることを惜しまなかった。 」

創世記22・12

アブラハムの信仰は神の究極の試練にも堪えるものであった。アブラハムは神の命令に従い、進んでイサクを献げようとし、その間も、神を信じ続け、神が約束した子供を惜しむことはなかった。

アブラハムが目を上げると、一頭の雄羊が角を藪に取られて動けずにいるのが目に入った。アブラハムは素早くそれを捕らえ、イサクの代わりに焼き尽くす献げものとして神に献げた。

4 神の誓い

「わたしは自らにかけて誓う、と主は言われる。あなたがこの事を行い、自分の独り子である息子すら惜しまなかったので、あなたを豊かに祝福し、あなたの子孫を天の星のように、海辺の砂のように増やそう。あなたの子孫は敵の城門を勝ち取る。地上の諸国民はすべて、あなたの子孫によって祝福を得る。あなたがわたしの声に聞き従ったからである 」  

創世記22・16~18

アブラハムにおいて、もろもろの国民が召命されるという約束が神自身の誓いによって確立された。神はしばしば約束されたが、しかし決して誓われたことはなかった。

「神の誓い」(ヘブライ6・13)が出るのはここが初めてである。「 神は約束されたものを受け継ぐ人々に、御自分の計画が変わらないものであることを、いっそうはっきり示したいと考え、それを誓いによって保証なさった 」(ヘブライ6・17)。

5章 新約聖書でのアブラハムの説明

1 創世記12 アブラムの召し出し

信仰によって、アブラハムは、自分が財産として受け継ぐことになる土地に出て行くように召し出される(創世記12・3参照)と、これに服従し、行き先も知らずに出発したのです。信仰によって、アブラハムは他国に宿るようにして約束の地に住み、同じ約束されたものを共に受け継ぐ者であるイサク、ヤコブと一緒に幕屋に住みました。

ヘブライ11・8、9

この旅は行き先を知らされていなかった。アブラハムは神の声に従って、ハランから未知の土地へ出発した。これはアブラハムの最初の信仰行為である。

アブラハムは、神が設計者であり建設者である堅固な土台を持つ都を待望していたからです。…この人たちは皆、信仰を抱いて死にました。約束されたものを手に入れませんでしたが、はるかにそれを見て喜びの声をあげ、自分たちが地上ではよそ者であり、仮住まいの者であることを公に言い表したのです。このように言う人たちは、自分が故郷を探し求めていることを明らかに表しているのです。…彼らは更にまさった故郷、すなわち天の故郷を熱望していたのです。だから、神は彼らの神と呼ばれることを恥となさいません。神は、彼らのために都を準備されていたからです。 

ヘブライ11・10~16

約束の地が天の国の予兆であった。あがないの舞台となるパレスチナに向かってアブラハムが移動したことは、天の国に向かう人類の救いの第一歩であった。

神の約束は、アブラハムとその子孫とが神と親しい関係にあったことを含んでいるので、アブラハムの行動の成否は神にもかかわりがある。

聖書は、神が異邦人を信仰によって義となさることを見越して、「あなたのゆえに異邦人は皆祝福される」(創世記12・3、18・8参照)という福音をアブラハムに予告した。 

ガラテア3・8

人類の祝福がアブラハムによる理由は、その子孫からメシアが生まれるからである。アブラハムの子孫がやがて世界制覇を遂げるといった権力的な意味はまったくない。メシアの恵みがその子孫によって全世界に伝えられるという意味である。

あなたがたは預言者の子孫であり、神があなたがたの先祖と結ばれた契約の子です。『地上のすべての民族は、あなたから生まれる者によって祝福を受ける』(創世記12・3)と、神はアブラハムに言われました。それで、神は御自分の僕を立て、まず、あなたがたのもとに遣わしてくださったのです。それは、あなたがた一人一人を悪から離れさせ、その祝福にあずからせるためでした。」

使徒3・25、26

2  「アブラハムは神を信じた。それが、彼の義と認められた。」(創世記15・6)

「アブラハムは神を信じた。それが、彼の義と認められた」(創世記15・6)とあります。アブラハムは、割礼を受ける前に信仰によって義とされた証しとして、割礼の印を受けたのです。更にまた、彼は割礼を受けた者の父、すなわち、単に割礼を受けているだけでなく、わたしたちの父アブラハムが割礼以前に持っていた信仰の模範に従う人々の父ともなったのです。  こうして彼は、割礼のないままに信じるすべての人の父となり、彼らも義と認められました。  神はアブラハムやその子孫に世界を受け継がせることを約束されたが、その約束は、律法に基づいてではなく、信仰による義に基づいてなされたのです。 従って、信仰によってこそ世界を受け継ぐ者となるのです。」

ローマ4・3~16

アブラハムのすぐれた点は、律法の業ではなく、信仰の偉大さであった。

アブラハムは、律法の行いなしに、ただその信仰によって義とされた。しかしこのときアブラハムはまだ割礼を受けていなかった。

アブラハムは割礼によってユダヤ人の父、信仰によって異邦人の父である。

3 イサクの献納

信仰によって、アブラハムは、試練を受けたとき、イサクを献げました。つまり、約束を受けていた者が、独り子を献げようとしたのです。この独り子については、「イサクから生まれる者が、あなたの子孫と呼ばれる」と言われていました。アブラハムは、神が人を死者の中から生き返らせることもおできになると信じたのです。それで彼は、イサクを返してもらいましたが、それは死者の中から返してもらったも同然です。   

ヘブライ11・17~19

アブラハムが神からイサクを献げなさいと命令を受けたとき、彼は、神が人間の犠牲を喜ばれるとは決して信じなかった。しかしアブラハムがその息子を献げたあと、ただちに甦るであろうと確信していた。それは神が「あなたの子孫はイサクによって伝えられる」(創世記21・12)と言われたからである。

この約束を堅く信じていた信仰深い父は、それが神の命令で殺されるイサクによって成就されるべきものであったので、イサクが一度捧げられても自分のもとに再び返されることを疑わなかった。

神がわたしたちの父アブラハムを義とされたのは、息子のイサクを祭壇の上に献げるという行いによってではなかったですか。アブラハムの信仰がその行いと共に働き、信仰が行いによって完成されたことが、これで分かるでしょう。「アブラハムは神を信じた。それが彼の義と認められた」という聖書の言葉が実現し、彼は神の友と呼ばれたのです。  

ヤコブ2・21~23

アブラハムの信仰は行いによって完成された。

 

「地上の諸国民はすべて、あなたの子孫によって祝福を得る 」(創世記22・18)。

アブラハムとその子孫に対して約束が告げられましたが、その際、多くの人を指して「子孫たちとに」とは言われず、一人の人を指して「あなたの子孫とに」と言われています。この「子孫」とは、キリストのことです。(ガラテア6・16)

すべての民が祝福されるという神の約束は2000年後に子孫のイエスを通して果たされる。

☆ アブラハム小史

前2166年頃・メソポタミアのウルで生まれる。 

前2091年頃・神からカナンの地に行くように命じられる。神はその地で、彼を偉大な国民にすることを約束する。 

アブラハムは神の言葉を信じ、義とされる(創世記15・6)。 

前2080年頃・アブラハムとハガルの間にイシュマエルが生まれる。このとき、名をアブラムからアブラハムに変える。 

前2065年頃・神が割礼をアブラハムとその子孫との間に結んだ契約の印とする。 

前2066年頃・アブラハムとサラの間にイサクが生まれる。 

前2050年頃・神はイサクを犠牲として捧げるように命じ、アブラハムの信仰を試す。 

前1991年頃・死去。 

6章 イサクの嫁を探しに

1 アブラハムの僕、イサクの嫁を探しにナホルに行く

年老いたアブラハムはイサクに嫁を見つけなければならないと思った。彼は異なる神を拝むカナン人の娘ではなく、同じ神を信じる娘を迎えることを願った。彼は故郷の親族の女性を妻に迎えることを決める。そして神との約束を破ることになるのでイサクを故郷に帰したくなかった。

そこでアブラハムは僕を遣わしてイサクの妻を探させ連れて来させるようにした。

僕はその女性が共に来ることを望まなかったら、先方にイサクを連れて行ってもいいかと尋ねた。すると、アブラハムはきっぱりと、自分と子孫にカナンの地を与えると神は約束したのだから、僕の使命は必ず達成されると答えた。

「主人のあらゆる貴重な品々」を贈物として携えて僕は出発した(創世記24・10)。ナホルに着いた僕はらくだに水を飲ませようと町の外の井戸に立ち寄った。そして井戸のわきで女性たちが水をくみに来るのを待った。

僕は神に祈り、彼のらくだに水を飲ませる女性がイサクの妻になるよにと願った。

2 僕の祈りが聞き入れられる

僕が祈り終える前に、リベカという若い女性が現れ、僕が水を求めると、彼女は水をくむと、彼に飲ませ、らくだの水も彼に与えた。

僕はリベカに贈物を与え、父親の名を聞き、父親の家に泊まる部屋がないか尋ねた。

彼女の答えに、僕は神が自分をアブラハムの遠縁のところに導き、その祈りをまさに聞き届けてくれたことを悟った。 

3 リベカの家で

リベカが高価な贈物をもって家に帰ると、兄のラバンが僕を家に招き入れた。そこで僕はアブラハムが自分を遣わした経緯と、その日の祈りのしるしについて語った。

ラバンとその父ベトエルはそれを神の業としてとらえ、リベカにイサクとの結婚を勧めた。

僕は嫁にもらう側が相手方の家族に支払う対価として高価な贈物をし、彼らの家で一夜を過ごした。

4 イサクとリベカの結婚

リベカは僕とともにアブラハムのところに行くことを同意した。

イサクが野で祈っていたとき、らくだが近づいてくるのが見えた。リベカは彼を見つけると、自分が花嫁であることを示すためにベールを被った。

僕は起こったすべてをイサクに告げた。イサクはリベカを母親であるサラの天幕へ連れて入った。サラはアブラハムが僕を派遣する前に死んでいた。

それはイサクがリベカをただ妻に迎えたというだけではなく、自分の母親の地位、つまり部族の母として迎え入れたというしるしであった。このようにしてイサクはリベカと結婚した。

7章 エサワとヤコブ

1 預言的予兆

イサクの妻リベカは不妊であったため、イサクは神に願い求めた。主はその願いを聞き入れ、彼女はみごもった。

彼女は双子をみごもったが胎内で激しく動き苦しんだので、主に尋ねると、次のような答えを得た。「二つの国民があなたの胎内に宿っており、二つの民があなたの腹の内で分かれ争っている。一つの民が他の民より強くなり、兄が弟に仕えるようになる。」 (創世記25・23)

出産のときがきて、二人の赤子が生まれた。先に出てきたのは赤く毛深かったので、エサワ(毛深いという意味)と名付けられ。次に出て来た子はエサワのかかとを噛むほど近くにいたので、ヤコブ(彼はかかとを噛んだという意味)と名付けた。

2 長子権の喪失 

二人は成長し、エサワは巧みな狩人になり、好んで外に出かけたが、ヤコブは穏やかで住まいにいることを好んだ。狩りを好むイサクはエサワを愛し、リベカはヤコブを愛した。

ある日のこと、ヤコブが煮物を作っていると、エサワが野原から疲れ切って帰って来た。あまりに空腹だったので、エサワはヤコブにその食べ物を分けてくれと頼む。ヤコブは兄より優位に立つ好機を逃さず、長男の特権、長子権を譲ることを要求した。

エサワはあまりにも空腹で、煮物はとてもおいしそうだったので、飢え死にと比べるならば長子権などどうでもいいと思った。ヤコブはさらに長子権を譲る誓いを立てさせる。エサワはそれがもつ意味を考えず、誓いを立て、ヤコブからパンと煮物を受け取る。エサワは空腹を満たすだけのために長子権を放棄してしまったのである。

やがてエサワは妻を迎えた。彼女たちはヘト人だった。アラム人の女であるリベカは、この娘たちが嫌いだったようで、ますますヤコブのほうに肩入れするようになる。

8章 父の祝福

1 母のたくらみ

イサクは年をとり、目がかすんで見えなくなってきた。愛するエサワを呼び出し、獲物を捕って来て、料理を作るように言った。その後で、エサワに長子としての祝福を与えるつもりだった。 

その話を聞いていたリベカはエサワが出かけて行くと、ヤコブに子山羊を連れて来るように告げる。リベカはエサワよりもヤコブを愛しており、その子山羊でイサクの好きな料理を作り、エサワの代わりにヤコブに祝福を得させようというのだ。

ヤコブは策略がばれれば祝福どころか呪われてしまうと心配した。心配するヤコブに母は「呪いは代わりに自分が受ける」と応え、自分の言う通りにするようにヤコブを促し、エサワの晴れ着を取り出してヤコブに着せ、毛深いと思わせるように子山羊の毛皮をヤコブの腕と首に巻いた。そして、イサクを喜ばせる料理とパンを持たせて、イサクのもとへ送り出した。 

2 騙される父

ヤコブがやって来たが、イサクは目がかすんで見えないので誰がいるのか尋ねなければならなかった。ヤコブは「長男のエサワです」と答えた(創世記27・19)。イサクはあやしく思い、どうしてこんなに早く獲物を捕らえたのかと尋ねた。ヤコブは神が計らってくださったと答えた。声を疑ったイサクは相手を近づかせて触れてみると、ますます混乱した。声はヤコブのようだが、腕はエサワのようだったのだ。イサクは料理を食べ、祝福するためヤコブを近寄らせた。エサワの着物のにおいがしたのでイサクは確信した。

イサクは祝福の言葉を唱え、この子の土地が肥沃であること、民が彼に仕えること、兄弟が彼を指導者と認めることを祈った。イサクは知らないうちに、神がかつてリベカに言った「兄が弟に仕える」という言葉を実現してしまったのだ(創世記25・23)。 

3 荒れる兄 

ヤコブが立ち去ってすぐ、エサワが料理をもって入って来た。イサクが誰かと尋ねると、エサワだという答えだったので、イサクはヤコブに騙されたことに気づいた。しかし彼は騙されたことを嘆かない。それどころか、すぐに彼の心の内奥に大いなる秘儀が明らかにされたので、ヤコブの祝福を追認する。

エサワは激怒した。ヤコブは長子権だけでなく、祝福も奪ったのだ。残されているものは何もない。絶望する息子にイサクはその人生が困難であること、土地は痩せており、弟に仕えなければならないと告げるしかなかった。しかし、いつか子孫がその支配を脱するときが来ることも告げた。それは何百年も後のことであったが(列王8・20~22)。 

9章 ヤコブの梯子 

イサクを騙し、エサワを怒らせたため、リベカはヤコブをメソポタミアの実家に送ることにした。ヤコブはまだアブラハムへの神の約束が自分への約束でもあるのか知らなかった。 

ヤコブの旅路は725キロもの長きにわたり、幾夜にも及んだ。そんなある晩、ヤコブは石を枕にして眠りに落ちると夢を見た。階段が地上から天に届いていて、天使たちが上がったり下ったりしていた。その頂点には神が立ち、ヤコブに宣言する。

「わたしは、あなたの父祖アブラハムの神、イサクの神、主である。あなたが今横たわっているこの土地を、あなたとあなたの子孫に与える。あなたの子孫は大地の砂粒のように多くなり、西へ、東へ、北へ、南へと広がっていくであろう。地上の氏族はすべて、あなたとあなたの子孫によって祝福に入る。見よ、わたしはあなたと共にいる。あなたがどこへ行っても、わたしはあなたを守り、必ずこの土地に連れ帰る。わたしは、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない。」 

創世記28・13~16

神は、いま横たわっているその土地をヤコブに与え、ヤコブの子孫が大地の砂粒のように多くなること、彼らを通してすべての地上の氏族が祝福に入ることを約束した。これはアブラハムとの約束の再確認であった。そして神は「わたしはあなたと共にいる」と宣言される。ヤコブはこの地をベテル(神の家)と名づけ、枕にしていた石を記念碑として油を注いだ。

この出来事はヤコブにとって重大な契機となった。父祖の神が変わらず自分の神であり、しかも神とはどこにいても出会うことができることを知ったからである。夢で見たことは天の神と地上の人々とのつながりを明らかに示したのだ。自分と常に共にいて自分が行く先のどこでも自分を守り、自分を見捨てず、カナンの地に連れ戻すと告げた神は、どこにいても見出すことができ、自らの民と共に歩んでくださる。それは重大な啓示であった。 

10章 騙されるヤコブ 

1 ラケルの策略

ヤコブはラケルと出会い、その父ラバンの家で生活した。ラバンの家にひと月滞在する間、ヤコブは忙しく働いた。ヤコブはラバンの娘のうち若い方のラケルを愛し、彼女と結婚したいと思っていた。ラバンはヤコブに「お前は身内のものだからといって、ただで働くことはない」(創世記29・15)と言い、家畜の世話の報酬として、どれだけ払ったらいいか尋ねた。ヤコブはラケルと結婚させてくれれば、その見返りにラバンのもとで7年働くと答えた。ラバンはこの申し出を自分の有利にできると考えて、ヤコブの要求を受け入れた。 

ヤコブはラケルをとても愛していたので、7年間の歳月はほんの数日であるかのように過ぎていった。7年が過ぎたとき、ヤコブはラバンにラケルとの結婚を申し出た。ラバンはそれを認めて、人々に祝宴に招いた。結婚の宴は1週間続いた。この「祝宴」にあたるヘブライ語は「酒を飲む宴」を意味する。お酒を飲みすぎて酔っていたヤコブに、ラバンはレアをラケルの代わりに天幕に入れた。ヤコブがその晩、床を共にしたのはレアであることに気づいたのは翌朝だった。ラバンに騙されたのだ。 

2 新しい提案 

ヤコブは怒ってラバンに「わたしが働いたのはラケルのためだ」(創世記29・15)と詰め寄り、なぜこんなことをしたのかラバンに問いただすと、ラバンは姉より先に妹を嫁がせる習慣はないと冷静に説明した。ラバンは、もう7年働くことを条件にラケルも妻として与えると提案した。ヤコブは同意するしかなかった。レアとの伝統的な1週間の婚宴をすませると、ラバンはラケルを二人目の妻としてヤコブに与えたが、婚宴は開かれなかった。二人の妻のうち、ヤコブは常にラケルの方を愛した。この後の7年間、ヤコブは再びラバンのために働くことになった。 

11章 イスラエル12部族のはじまり 

 

1 嫉妬深い反応

神はヤコブがラケルほどにはレアを愛していないのを見て、レアをヤコブの最初の4人の母とした。レアは最初の子をルベン(ヘブライ語で「主はわたしの苦しみを顧みた」の意味)と名づけた。しかしヤコブのレアに対する態度は変わらなかった。続いて、シメオン、レビ、ユダと三人の子が生まれたが、ヤコブはレアよりもラケルを愛し続けた。  

ラケルは逆に子ができず、レアを妬むようになり、「自分にも子がほしい、できないなら死ぬ」とヤコブに迫った。ヤコブは怒って、「わたしが神に代われると言うのか。お前の胎に子供を宿らせないのは神ご自身なのだ」(創世記30・2)と答える。レアへの競争心に燃えたラケルは、自分の女奴隷ビルハにヤコブの子を生ませるに至る。ビルハはヤコブとの間にダンとナフタリを産んだ。これはしばらく妊娠できないでいたレアの嫉妬心を刺激し、彼女も自分の召使いジルバをヤコブに差し出した。ジルバはガトとアシュエルを産む。 

2 レアはさらに子を産む 

自分自身の子供を待ち望むラケルと、ヤコブの愛を求めるレアとの競争は続く。ある日のこと、レアの子ルベンが恋なすびを野原からもって帰ってきた。これは当時妊娠促進の効果がると信じれれていて、ラケルはそれをレアに恵んでほしいと頼んだ。レアは「あなたはわたしの夫を取っただけでは気が済まず、わたしの息子の恋なすびまで取ろうとするのですか」(創世記30・25)。しかし、レアはその恋なすびを手段にしようと考え、ヤコブと床を共にさせてもらえるならそれを与えていいと言った。ラケルはその条件をのみ、その晩、レアは子供を宿し、5人目の子を産んだ。その子をイサカル、「報酬」と名付けた。その後、レアは6人目の子をヤコブに授けた。「神はすばらしい贈物をわたしにくださった。今度こそ、夫はわたしを尊敬してくれるでしょう」(創世記30・20)と言った。レアはその子をセブルン、「尊敬」と名付けた。その後、レアはヤコブとの間に娘を産み、ディナと名付けた。 

3 ラケルの子 

それから何年もたってからついにラケルが子を宿し、11人目の子を産んだ。彼女はその子をヨセフと名付けた。これは「神が加えてくださいますように」、つまりなおもう一人待望しているということである。ラケルの祈りは聞き入れられたが、それは重い代償を伴った。約束の地にもどったときのことであったが、ラケルは男の子を産み、ベニヤミンと名付けた。しかし、そのお産のために彼女は死ぬ(創世記35・16~19)。こうしてヤコブは12人の息子と1人の娘を得た。 

4 14年ラバンのもとで働いたヤコブは故郷に帰る決意をする 

神はヤコブの労働でラバンを繁栄させた。ヤコブは今度は自分自身の家族を繁栄させる番だとラケルに告げ、黒みがかかった子羊とぶちやまだらの羊と山羊を自分の家畜として集めたいと願い出た。そのような家畜は多くはない。羊は普通は白く、山羊は茶色か黒だ。ラバンは応じたが、再度ヤコブを陥れ、ヤコブが取るべき家畜を移動させてしまう。そこでヤコブは交配の知識と民間伝承を駆使して縞やまだらの家畜を大量に産ませ、自分のものとした。その後6年余りで、ヤコブはとても裕福になり、多くの家畜と召使を得、今度こそ帰郷の準備が整った(創世記31・41)。 

5 あわただしい出発 

ヤコブが豊かになったとき、神はヤコブにカナンに帰れと説いた。ヤコブはこのことをラケルとレアに話すと、二人は自分たちをひどい目にあわせている父から離れられることを喜んだ。彼らは直ちに出発したが、ラケルはヤコブの知らないうちに家の守り神テラフィムを持ってきていた。3日後にこの出発に気づいたラバンは彼らを追いかけ、ヨルダン川東岸のギレアドで追いつくと、ヤコブの逃げ方を非難した。激しい言葉の応酬の末、両者は契約を結び、その証として石塚を築いて、互いの領地の境界とした。この後、両者は袂を分かつ。 

12章 ヤコブ、神と闘う 

1 ヤコブ、エサワとの再会に備える

ヤコブはエサワを欺いて以来ずっと、兄の再開が気がかりだった。そこで贈物を先に送って備えることにする。

神のみ使いの出現に促され、ヤコブは死海南東の荒れ地の国エドムにいるエサワに使いを送った(創世記32・2~6)。双子の兄の好意を得ようとしたのだ。使いは戻って来て、エサワが400人を連れてこちらに向かっていると告げたことでヤコブはますます不安になる。ヤコブは自分の集団の人と家畜を二つに分け、攻撃を受けてもどちらかが逃げられるようにしておいた。そして、ヤコブはアブラハムとイサクの神に祈った。今の状況は、神に従ったためなのだから守ってくれるように求めた。 

2 エサワの贈物 

ヤコブはマハナイムと自ら名付けた場所に数日間滞在し、相当な数の家畜を兄への贈物として準備した。長子権と父の祝福を奪ってエサワに損害を与えたことを鑑みてのことであった。ヤコブはまず召使いそれぞれに贈物をもたせ、間隔を開けて出発させた。贈物が少しずつ増えていくことでエサワを宥めるためであった(創世記30・20)。召使いにはそれぞれ「これは後から参りますヤコブからの贈物です」と言わせることにした。 

3 ヤコブの格闘 

その後、ヤコブはラケル、レア、2人の側女、11人の息子たち、持ち物を川の向こうに渡らせ、自分は一人でもう一晩、留まった。その晩、何者かが現れ、夜が明けるまで一人でおりヤコブと格闘し続けた。ヤコブが屈服しなかったので、その人はヤコブの腿の関節を外した。それでも、ヤコブは闘いを続けた。夜明けになり、その人はヤコブに去らせてほしいと頼んだが、ヤコブは「祝福してくれるまで帰さない」と言って、応じなかった。ヤコブは名を尋ねられ、名を答えると、その人はヤコブに次のように告げた。

「おまえはもうヤコブではなく、イスラエルと呼ばれるであろう。お前は神と戦っても強い、また人間にも勝つだろうから」。

創世記32・29 バルバロ訳

その人はヤコブに、もはやヤコブではなく、イスラエル(神と戦って強いの意味)と呼ばれるようになると言った。ヤコブが神と戦って、強かったからである。その時、ヤコブは自分が戦ったのは神に他ならないと気づいた。相手は名を教えず、ヤコブを祝福して消えてしまった。ヤコブはその場所をペヌエル(神の顔)と呼んだ。神と出会ったのになお生きていたからである。

この出現は事実であると同時にシンボルであった。ヤコブは今まで、多くの困難にあたって、自力だけで戦っているつもりであった。しかし今は、神自身が彼の道をはばまれたのだと知った。この話のあとでヤコブは、人が変わったように神の力に依頼し、神の祝福を待ち受けるようになった。

4 兄との和解 

腿の痛みで足を引きずるヤコブにはもはやエサワと向き合う力は残っていなかった。ヤコブは地にひれ伏したが、エサワは腕を差し伸べヤコブを抱きしめ、共に泣いた。ついに兄弟は和解したのである。エサワは共に暮らすことを望んだが、ヤコブはカナンに戻る決意であった。シケムに着くと、ヤコブは100シタでその土地を買って(創世記33・19)、天幕を張り、祭壇を建て、それをエル・エロヘ・イスラエル(イスラエルの神のエル)と呼んだ。先祖の神は今や彼の神となったのである。 

13章 ヨセフとその兄弟 

1 ヨセフの夢

ヤコブには12人の息子がいたが、最愛の妻ラケルの子で、遅くに生まれた下から二番目の子ヨセフがヤコブのお気に入りであった。ヨセフには裾の長い晴れ着を与えたりしていたので、兄たちは嫉妬していた。 

さらに悪いことにヨセフは、兄たちや、それどころか、太陽と月、さらに11の星たちが、自分に向かってひれ伏した夢を見た、と語って、兄たちを徹底的に怒らせてしまう。 

2 兄たちの計略 

あるとき兄たちが天幕から遠く離れたところで羊を飼っていると、ヤコブは万事うまくいっているか報告させるためにヨセフを送った。ヨセフが近づいていくと、例の晴れ着を着ていたので、兄たちには遠くからでもヨセフとわかった。兄たちはヨセフを殺してしまうことにし、近くの貯水穴に放り込んで、ヤコブには野獣に襲われたと報告するという計画がすみやかに練られた。しかし、長兄ルベンは空の貯水穴に放り込んで置き去りにするという提案をした。ルベンは後でひそかに救い出そうと思っていた。ルベンの計画が採用され、到着したヨハネは晴れ着を脱がされ、貯水穴に投げ込まれた。 

3 奴隷として売られる 

その日、そこにたまたまミディアンに通商が通りかかった。らくだにはギリアドの香辛料、樹脂、没薬が積まれ、エジプトに向かう途中であった。そこでユダがヨセフを殺しても何の得にもならないから、売って金に換えようと提案した。一同は同意し、銀20枚でヨセフを売り渡した。隊商はヨセフを連れて、去って行った。ルベンはその時、兄弟たちといなかったので、起きたことに気づかなかった。彼がヨセフを助けに貯水穴に戻ってみると、ヨセフはいない。ルベンは心に痛みを感じ、衣を裂き、兄弟たちのもとに戻って叫んだ。「あの子がいない。わたしは、このわたしは、どうしたらいいのか」(創世記37・30)。 

4 ヤコブ騙される 

他の兄たちは自分たちのしたことを隠していた。そしてヨセフに晴れ着を雄山羊の地に浸し、ヤコブに見せた。ヤコブは「あの子の着物だ。野獣に食われたのだ」(創世記37・33)。ヤコブは打ちのめされ、嘆き悲しんだのであった。

14章 ファラオの夢 

1 ヨセフ、牢に入れられる

ヨセフが家の管理をうまくやったことはポティファルの関心を引いただけでなく、その妻の興味も引くこととなった。ポティファルはヨセフの管理手腕を評価していたが、妻の関心はその外見と体格に向けられていた。彼女は毎日自分と寝るように迫ってヨセフを苦しめたが、ヨセフは拒絶した。ある日、召使たちがいないとき、彼女に着物を掴まれた。ヨセフは何とか逃げたが、着物を置いてきてしまった。拒絶されたことに怒ったポティファルの妻は夫にヨセフが乱暴しようとしたから、撃退してやったという話をでっち上げた。証拠は彼の着物だ。ポティファルは激怒し、即座にヨセフをファラオの監獄に収監させた。 

2 ヨセフ、夢解きをする

ヨセフは不当にも投獄の身となった。しかし、監獄の看守はすぐにヨセフの手腕に気づき、その有能ぶりを見込んでヨセフを獄中の責任者とした。そこで投獄されてきた二人の臣下、給仕役の長と料理役の長と出会う。ある晩のこと、二人の臣下はそれぞれわけのわからない夢を見た。夜が明けて、落胆している二人に気づいたヨセフは「夢の解き明かしは神のなさること」と言い、内容を詳しく話させた。給仕役の長の夢は3本のぶどうのツルから取ったぶどうを搾ってファラオの杯に注ぎ、それをファラオに捧げたというものだった。ヨセフはそれを解釈し、3日後に給仕役の長は復職し、再びファラオに仕えると言った。そして、その暁には自分のことを思い出して、監獄から出してほしいと頼んだ。このよい話を聞いた料理長の長は自分の夢の内容も聞かせに来た。頭上に3つのパン籠をのせられ、その最上段の籠から鳥がついばんでいるという夢であった。ヨセフはファラオが3日後に料理長の首をはね、からだは吊るして鳥がついばむに任せるのだと説明した。3日後、解釈通り、給仕長は復職し、料理長は吊るされた。しかし、給仕長はヨセフのことを忘れてしまった。 

3 ファラオの厄介な夢 

それから2年の月日が流れ、ヨセフは相変わらず監獄にいた。しかし、ついに運命は動き始める。ある夜、ファラオが夢を見る。ナイル川のほとりに立っていると、まず肥えた7頭の牛が水から上がってきた。その後、痩せた7頭の牛が現れ、肥えた牛をまる飲みにするという夢だった。ファラオはその後も同じような夢を見る。今度は干からびた7つの穂がよく実った7つの穂を飲み込むという夢だった。翌朝、ファラオは不安になって、魔術師と賢者を呼び出したが、その夢を解釈できる者はいなかった。その時、あの給仕長が獄中で出会った若いヘブライ人のことを思い出す。給仕長はヨセフが自分たちの夢を解釈してまさに事実その通りになったと語った。そして、ヨセフはファラオのもとに呼び出される。 

4 ファラオと会うヨセフ 

ファラオに「夢を解き明かすことができると聞いている」と言われたヨセフはそれを否定し、「それができるのは神だ」と答えた。ヨセフはファラオが見た2つの夢を詳しく聞くと、2つの夢は同じことだと説明する。7頭の肥えた牛と7つの豊かな穂は7年を意味し、7頭の痩せた牛と干からびた穂はその後に続く7年である。7年の間エジプトは豊作に恵まれ、次の7年には飢饉に見舞われると神はファラオに告げているということだった。同じような夢を2回も見たのは必ず起こるという強調だった。 

5 ヨセフ、エジプトの指導者となる 

ヨセフはこの状況に対処する賢者を任命するようファラオに促し、7年の間、収穫物の5分の1を備蓄し、その次の7年の飢饉に備えることを提案した。ファラオは自分の目の前にいる男ほどその仕事にふさわしい者はいないと言い、ヨセフを全エジプトの責任者とし、多くの贈物を贈った。兄たちに奴隷に売られてから13年が経っていた。 

15章 兄弟たちの和解 

1 ヨセフ、兄たちと再会、和解に向けて策を施す 

ヨセフが預言した飢饉が到来し、兄たちが食料を求めてエジプトにやって来た。ヨセフはすぐに兄たちに気づき、和解にむけた計画を練る。そして、一族をエジプトに呼び寄せるつもりだった。 

すべての人に食料を売ることがヨセフの仕事であった。兄たちはそこにやって来てヨセフに謁見したが、ヨセフだとは気づかなかった。ヨセフはすぐに兄たちとわかったが、自らのことは明かさず「お前たちは回し者だ。この国の手薄なところを探りに来たに違いない」と言うと(創世記42・9)、兄たちは食料を買いに来ただけだと反論した。自分たちは12人の兄弟のなかの10人で、残りの2人のうち一人は父と家で待っており、もう一人はもうすでに死んだと説明した。ヨセフは一番末の弟を連れて来るまではその話は信じないと申し渡し、彼らを投獄する。 

2 家に帰る 

3日後、ヨセフは話の証拠として末の弟を連れに行く間、シメオンだけを人質として残して行けと告げた。兄弟たちは昔ヨセフにした仕打ちのためにこのようなことが起きたのだと語りあった。謁見中は通訳がいたので、ヨセフが一言一句理解しているとは思わなかった。ヨセフは彼らの袋に穀物を詰め、代金の銀もその中に戻して彼らを送り出した。家に着くと、父ヤコブに一連の出来事を話し、ベニヤミンを連れてもう一度行かねばならないと説明したが、また息子を失うことになるのを恐れるヤコブは出発を許さない。 

3 再びエジプトへ 

飢饉は続き、食料を得るためにはヤコブは息子たちを送り出すことを余儀なくされ、不本意ながらベニヤミンも同行させた。エジプトに到着した兄たちがエジプトにベニヤミンを連れて来たことを知ったヨセフは料理を用意させた。兄弟たちから贈物を受け取ると、父の安否を尋ね、兄弟たちを見渡した。ベニヤミンに目をとめると、ヨセフは「前に話していた末の弟はこれか」と尋ねた(創世記43・29)。ヨセフは感情が高ぶり、席を外して泣いた。平静を取り戻してから座に戻り、食事を出すように言いつけた。兄弟たちは年の順に座らされたことに驚いた。そして、ベニヤミンの料理は誰よりも多かった。翌朝、ヨセフは兄弟たちが出発する前に彼らの袋に銀の杯を入れておいた。兄弟たちが遠く離れる前に、ヨセフは執事に彼らを追跡するように命じ、窃盗を咎めさせた。彼らは身の潔白を主張したが、ベニヤミンの袋から銀の杯が出てくると何も言えなくなった。兄弟たちが引き戻されて来ると、ヨセフはベニヤミンを奴隷とするが、他の者は帰ってよいと言い渡す。ユダはヨセフに嘆願し、年老いた父はベニヤミンが帰らないということを知ればショックで死んでしまうと訴えた。 

4 ヨセフ、正体を明かす 

ヨセフはもはや自分のことを秘密にしておくことができなくなった。部屋からエジプト人を退出させると、ヨセフは正体を明かした。兄弟たちはあまりの驚きに言葉を失い、身の危険を感じた。しかし、ヨセフは「わたしをここに売ったことを悔やんだり、責め合ったりする必要はありません。命を救うために、神がわたしをあなたたちより先にお遣わしになったのです」と彼らに告げる(創世記45・5)。ヨセフはベニヤミンを抱きしめ、他の兄弟たちに口づけして泣いた。ファラオは話を聞き、ヨセフの兄弟に命じて、父親をカナンから連れて来させ、エジプトで家族がみな安全に生活できるようにした。いったんカナンに戻った兄弟たちはヤコブに「ヨセフがまだ生きています。しかも、エジプト全国を治める者になっています」と報告した(創世記45・26)。ヤコブは気が遠くなるようだったが、一族でエジプト移住は承諾した。その道すがら、神はヤコブに話しかけ、神が共にあるからエジプト行きを恐れる必要はないこと、その地で子孫を大きな民にすることを再び約束した。一行がナイル・デルタ東部のゴシェンに着くと、ヨセフが出迎え、父を見て涙を流した。ファラオは一族がゴシェンに住むことを許し、そこで長年にわたって繁栄し、数を増していった。