第2書 第六章 神殿における元后の試練と御両親の逝去 

年齢において小さい子供なのに、知恵においては大人である聖マリアは成長し、神と人からますます愛されました。聖マリアの熱情は自然の制限を超え、恩寵は神の計画と目的に対応しました。神の恩寵の流れは激流となって聖マリアの中に流れ込み、神の働きの全部が聖マリアのためだけであったように思えます。聖マリアの威厳も相応して大きくなり、主の聖心を完全に十分に満たし、天の全天使を讃嘆させました。聖マリアは地を祝福し、み言葉の芽を出させ、百倍の実、つまり聖人たちを次々に実らせました。聖マリアは聖書を読んで神について勉強しました。特にイザヤ書やエレミア書と詩編を読み、救い主と恩寵についてよく理解しました。何回もみ言葉の人性の秘儀について、天使たちととても優しく話をしました。み言葉が乙女なる母から生まれ、大人となり、アダムの子孫たち、つまり人類のために苦しみ、死ぬことを愛情深く話したのです。聖マリアと話した聖天使とセフィラムは、聖マリアの至高なる威厳について聖マリアには決して打ち明けませんでした。聖マリアは、主と幸せな御母の婢(はしため)になりたいと何度も申し出ました。いと高き神は、幻視のなかに現れ、聖マリアに話されました。「私の配偶者、私の鳩よ、私はあなたを限りなく愛し、私の眼に最も叶い、私の希望する全てをあなたに与えたい。多くの苦しみや困難のなかに隠れた宝をあなたは気づいています。私の御独り子が人間性をまとい、十字架の道を言葉と行いにより教え、選ばれた人たちへ遺産として残し、苦しみにおける謙遜と忍耐を十字架の法の土台とすることをあなたは知っています。人性が非常に多くの罪により悪に傾き退廃してしまった現在、十字架の道は必要です。私の御独り子が人間となり、困難と十字架により光栄の冠を獲得したように、人間も自ら努力すべきです。私の配偶者よ、私はあなたを選び、あなたに賜物を与えましたが、その賜物をあなたが活用し、その実を実らせ、私の選ばれた民を頂く遺産を受けるべきです。従って、あなたが私への愛のために率先して困難に当たるよう、私は望みます」。神のこの提案に、誰にも負けない王女マリアは世の中のあらゆる聖人たちや殉教者たちよりもっと勇敢に答えました。「主なる神、私のいと高き王、私の能力の全てと私という人間、それ自身は御身の無限の恩恵の一つですが、御身を喜ばせたい一心で生贄になる用意ができています。御身の限りない知恵と善のため、私の犠牲が捧げられますように。御身が私に選択の自由を下さいますなら、あなたへの愛のため、苦しみ続けて死ぬことを選ばせてください。私の唯一の神、あなたのこの婢を生贄として苦しみの燔祭に使ってくださいますように。最も寛大な主よ、どんな人よりももっと多くの負債を負っている私の苦しみを受け取ってくださるなら、死のあらゆる悲しみと苦しみを私に与えてください。あなたの御前にひれ伏し、私を保護し、見捨てないようにお願いします。ああ、私の主よ、あなたが私たちの祖先や預言者に約束したことを思いだしてください。あなたは義人に恩恵を与え、苦しむ人たちのそばに立ち、慰め、保護と守護になることを。あなたは真実を語り、約束を違えません。人間の悪意はあなたの慈悲に頼る人々への、あなたの愛を妨げることはできません。あなたの聖にして完全な意志を私の上に実行されますように」。いと高き方は聖なる子供マリアの捧げものを受け取り、言われました。「王の娘、私の鳩、愛され選ばれた者よ、よくぞ言いました。あなたの願いの第一は、あなたの父ヨアキムの近い将来の死として叶えられます。彼は平和な死をとげ、リンポ(古聖所)に降り、諸聖人の仲間入りをし、人類の救い主を待ちます」。父に対する子供の愛情は自然にもつものなので、この至聖な子供の心も父の死を悲しみました。父、ヨアキムのために熱心に祈り、祝された死の瞬間、父を悪魔から守り、義人たちの群れに加えてくださるよう嘆願し、自分の苦難をそのために捧げました。主は天の子の願いを聞き入れ、父上は神を愛し仕えたことの報いを得、アブラハム、イサク、ヤコブと一緒になると伝えました。ヨアキムの死の八日前、神は彼の死の日時を聖マリアに教えました。彼の死は聖マリアの神殿での生活が始まって六ケ月御でした。この予告を聞き、聖マリアは十二位の天使たちに、父ヨアキムを助けるように頼みました。彼の枕元に立った天使たちは神に願い、姿を現し、彼を慰めました。偉大な首長であるヨアキムは、何千もの天使たちが聖マリアを護っているのを見ました。全能者の命令を受けて、天使たちはヨアキムに言いました。「神の僕よ、最も高く最も強い主があなたの永遠の救いとなり、主があなたの霊魂を救い給わんことを。あなたの娘マリアが私たちを寄こし、死の負い目をあなたの創造主に返すこの時に、あなたを助けるように頼みました。聖マリアは全能者へ最も信仰があり、最も強い取り次ぎ手であります。主はあなたを聖マリアの父にしたため、あなたはこの世より平安に旅立つであろう。理解を越える主は、今まで秘密を隠してきましたが、今、あなたが主を讃え、死の苦しみ、悲しみを乗り越えるよう、この秘密を明かします。あなたの娘マリアから神のみ言葉が人性をとります。聖マリアは救世主の母となり、あらゆる被造物のなかで祝されたものとなるのです。聖マリアは神の次になります。原罪により人類が失ったものを取りもどします。主が太祖シメオンよりあなたを祝しますように」(詩編百二十八・五)。聖天使たちが聖ヨアキムに話しているとき、聖アンナは彼の枕元に立って聞きました。話が終わると聖なる首長は、話の喜びと死の痛みの闘いに入り、愛、信、讃嘆、感謝、謙遜などの英雄的諸徳の祈りをして、聖人の貴い死を遂げました。彼の聖なる霊魂は天使たちにより古聖所に運ばれ、主の最後の使節としてそこにいる義人たちに、永遠なる日の夜明けが近いことを告げました。ヨアキムとアンナの娘、至聖なるマリアにより、朝日が世の中に昇ったこと、聖マリアが全人類の救い主、御独り子のキリストを産むという大ニュースを聞いて、義人たちは感激していと高き方に感謝の歌をたくさん歌いました。私たちの王女の最初の苦労は、主が絶えず与えた幻視の中止でした。聖天使たちも姿を消しました。聖天使は見えなくても聖マリアの周囲で守護していましたが、聖マリアは見捨てられ、暗夜に独りぼっちになったような気になりました。これが聖マリアにとって苦痛の一つになると知らされていませんでした。謙遜と比べ物のない愛で、このことを考えました。自分の忘恩のため、主の幻視を失ったと考える一方、燃える愛をもって祈りました。「いと高き神、全被造物の主、悪い被造物である私は、忘恩と友情を失ったことの責任を取ります。私を生き生きさせた太陽のかげりは、私が感謝の仕方を知らず、み旨を遂行する方法を知らなかったため起こりました。あなたの御手が私を造りました(ヨブ十・八)。御身は私のことをよくご存じです(詩編百三・十四)。私の霊魂は苦しみのため、だめになります(詩編三十一・十一)。あなた以外誰もこの衰えていく生命を回復できません。生命が消えるとき、誰が私を死から守るのでしょうか?」。天使たちも嘆きました、「天の王子たちよ、いと高き王の天使たちよ、私の親友よ、どうして私を置いてきぼりにしたのですか?あなたたちに感謝しなかったので、あなたたちと私の創造主に恥をかかせたことを疑いません。どうぞ私の欠点を直し、私の主から御赦しを得てください。私の愛するお方がどこにおられるか、どうぞ教えてください。どこに隠れておられるのか、どうぞ教えてください」。他の被造物全員にも聖マリアは言いました。「恩知らず者の私のことを怒っていますね。汚い私があなたの方のなかに留まることを主は許してくださいました。天よ、あなたは大変美しく広い。惑星も他の星も美しく輝いています。元素(空気、水、土、金)は強く、地球は香しい植物で飾られ、水中の魚は無数であり、鳥は速く、鉱物は隠れ、動物はとても強いのです。これらは調和のうちに私の愛する御子への道を教えます。しかし、廻り道を教えるのです。被造物の上を速く動き回っても、どこにも主を見つけず、悲しみも苦しみも、喘ぎもへりませんし、私の望みはますます強くなり、私の愛はもっと燃えます」。悪魔なる龍は、聖マリアの勇気と誠実を知り、神の御助けを感じながらも、私たちの至上の隠れた知恵や賢慮について何も知りませんでした。それにも関わらず、誇り高い龍は神の国を攻撃しました。それはダイヤモンドの城壁を蜂の針が突くようなものでした。私たちの王女はあの強い女でした(蔵言三十一・十一)。彼女の飾りは堅忍でした(蔵言三十一・二十五)。置物は純潔と愛徳でした。汚い高慢な蛇はこのお方に対し、怒り狂い、殺そうとして大軍を率いて死力を尽くして攻めましたが、失敗しました。地獄の攻撃は、他のどんな人間に対するよりも醜いものでした。神は地獄の力やずるさを減らしました。ルシフェルの傲慢さは実力以上です(イザヤ十六・六)。ずるい蛇は、聖マリアの同僚たちの心の中に嫉妬と対抗意識を密かに燃やしました。聖マリアの時間厳守の徳が抜きん出ているため、同僚たちは先生から注目されないこと、自分たちの怠慢ぶりがもっと目立つこと、聖マリアがえこひいきされ、自分たちが叱られることを思わせたのです。同僚たちは霊的なことに無頓着でしたので、悪魔の言うままになりました。至純なマリアを毛嫌いし、憎みました。同僚の少女たちは、悪魔に騙されているなど露知らず、悪巧みを立てました。この世の知られざる王女を迫害し、神殿から追い出そうという考えです。彼女たちは聖マリアを取り囲み、ののしりました。聖マリアを偽善者と決めつけ、祭司たちや先生に取り入り、他の少女たちの悪口を告げ口し、一番役立たずだと言って非難し続けました。聖マリアは言いました。「私の友達と女主人であるあなた方のおっしゃる通りです。私は皆さんのなかで最低で、一番ダメな人間です。私の姉妹である皆さん、私の欠点を許し、色々と教えてください。私がもう少し、ましになるように指導してください。あなたたちの助けが必要です。私はあまりにもダメな人間ですが、良くなりたい一心です。何事においても従います。どうぞ、言いつけてください」。聖マリアの謙遜で甘美な言葉は、同僚たちの頑固な心を和らげるどころか、少女たちをもっと怒らせました。迫害は長いこと続きました。天の貴婦人は謙遜、忍耐、寛容を続けました。悪魔たちは勇気を奮い起こし、少女たちに向こう見ずな考えを起こさせ、この最も謙遜な子羊に暴力を振るい、殺すようにけしかけました。しかし、主はこの涜聖を許しませんでした。少女たちがののしることはお許しになりました。この騒ぎは祭司たちや先生に聞こえませんでしたので、聖マリアは神と人間に対して比べることのできない諸徳を積みました。聖マリアは、悪に対して善を与え、ののしりに対しては祝福を返し、涜聖に対して祈り、愛徳と謙遜の英雄的行為をしました(一コリ四・十三)。神の律法の最もすぐれたことを遂行したのです。聖マリアは、迫害する少女たちのために祈りました。自分がこのような待遇を受けるべき極悪人の立場までへりくだったことは、天使たちを感嘆させました。全てにおいて、人間の考えやセフィラムの最高の功績を聖マリアは越えたのです。悪魔のそそのかしに動かされた少女たちは、聖マリアを離れ部屋に連れ込みました。そこで気兼ねなくいじめることができました。ものすごい侮辱を浴びせ、聖マリアを弱らせ、怒らせ、乱暴しようとしましたが、一時も聖マリアは悪に負けず、不動のまま、偉大な親切と甘美で少女たちに答えました。思い通り行かず、我慢しきれなくなった少女たちは、目茶苦茶に騒ぎたてたので、神殿中に響きわたりました。祭司たちや先生がかけつけ、何事かを問いただすと、聖マリアは無言でした。少女たちは腹立たしげに言いました。「ナザレトのマリアが騒ぎをおこし、いやらしいふるまいで私たちに喧嘩を売ったのです。祭司方のおられないとき、私たちをイライラさせ、怒らせたので、彼女がこの神殿にいる限り、おちおち生活できません。優しくすればつけ上がるし、注意すれば私たちの足下にひれ伏して見せかけの謙遜を示して私たちをからかうのです。そして喧嘩をしかけ、皆をめちゃめちゃにするのです」。祭司方と先生は、地上の女主人を他の部屋に連れていき、厳しく叱りつけました。他の少女たちの訴えを本気にし、神殿に住む者として行いを改めるよう勧め、もし改めないなら神殿から追い出すと脅しました。この脅迫は一番手厳しい罰です。何の責任もないのですから、もっとひどいです。私たちの女王は、最も甘美なる無邪気と謙遜の気持ちで従いました。先生と祭司たちから放免されるやいなや、聖マリアは少女たちのところに戻り、ひれ伏し、赦しを願いました。聖マリアが涙を流すのを見て、祭司たちや先生に叱られたのだと考え、少女たちは親切にしてあげました。この騒ぎをたくらんだ龍は、不注意な少女たちをもっと思い上がらせたのです。少女たちは祭司たちを丸め込んだので、至純なる乙女のみ名を侮辱しようともっと頑張りました。新しい告訴やうそを少女たちにでっち上げさせました。いと高きかたは、御独り子の至聖なる御母に対して大変失礼になることを許可しませんでしたから、少女たちはとても小さな欠点を空想し、誇張し、告げ口をしました。しかも、ねちねちやりました。このようなことで、私たちの最も謙遜な貴婦人マリアは謙遜の灰のなかから何度も自身を更新しました。悪魔の罠にはまった少女たちの盲目的嫉妬が止みそうになったとき、主は眠っている祭司に話しました。「私の婢、聖マリアは私の眼に叶う、完全に選ばれた者である。告訴された全てにおいて全く無罪である」。同じ啓示がアンナ先生にも与えられました。翌朝、祭司と先生はお互いが受けた啓示について相談し合い、確信し、騙されたことを後悔し、王女マリアを呼び、間違った報告を信用したことへの許しを乞い、迫害と苦痛から聖マリアを守るため、改善をはかると申し出ました。聖マリアは答えました。「先生方、私は叱責に値します。叱責は私にとり一番必要ですから、取りやめないようにお願いします。少女たちとの関わり合いは、私にとり一番高い商品です。感謝のため、私はあの人たちにもっと忠実に仕えたいと思います。しかし、あなたの意志に従います」。祭司と先生は喜び、聖マリアのへりくだった願いを聞き入れ、新しい畏敬と愛情をもって聖マリアを注目するようになりました。習慣により祭司と先生の手に接吻したあと、引き下がる許しを頂きました。祭司と先生がよく見張るようになると、聖マリアは少女たちからいじめられなくなり、困難という宝を失うことになると心配でした。しかし、違う困難がありました。主は聖マリアから約十年間隠れました。この間、二、三回、主が御顔を見せましが、また以前のような恩恵は少なくなりました。聖マリアがいと高きかたの威厳に値するまで修行しなければなりませんでした。この本の第十四章で述べるように、聖マリアが主の幻視をいつも見せて頂いたならば、人間としての苦労はなくなったでしょう。この期間、主と天使が見えず、聞かれず、恩寵が以前よりも減ったようでしたが、この恩寵は全聖人が受けた恩寵よりも多く、聖マリアの霊魂を幸せにしました。十二歳になった時、天使の声が聞こえてきました。「聖マリア、あなたの聖なる母アンナの生涯が今終わろうとしています。王なる神は聖アンナを朽ちるべき体から引き離し、今までの労苦を完成するでしょう」。この思いがけない知らせを聞いて、聖マリアはひれ伏し、熱心に祈りました。「あらゆる時代の王、見えない永遠の王、不死・全能なる宇宙の創造主、塵と灰に過ぎない私は、有り余る御恵みを受けておりますが、またもや私のお願いをお聞き届けさせてくださいますように。ああ、主よ、あなたの尊きみ名を絶えず口にしたあなたの婢を平和に逝かせてください。私の母が敵の攻撃に勝ち、あなたの選ばれた民の門を通れますように。この世において母を守ってくださった御手が、母を御身の恩寵の平和のなかに受け入れて下さい」。その晩、主は守護の天使たちに命じ、聖マリアを御母の病床に運ばせました。聖マリアは御母の手に接吻して言いました。「私の母上、いと高きかたにより母上が元気づけられ、照らされますように。母上が私に最後の祝福をしてくださるので、私は大変幸せです」。聖アンナは聖マリアを祝福し、娘である至聖なるマリアの腕に抱かれて帰天しました。聖マリアは天使たちに運ばれ、神殿に戻り、悲しみと淋しさのなかで神を誉め讃えました。神の幻視の日が近づいてくるようにマリアは思いました。見えない火に焼かれましたが、ただ照らされているだけでした。天使たちは尋ねました。「私の友達、教えてください。今、夜の何時ですか?全てを照らし、生かす正義の太陽はいつ上がりますか?」天使は答えました。「いと高きかたの浄配、あなたの望む光と真理は近くに来ています」。この時。天使たちの姿が見えました。以前のように視覚に頼らず見えます。天使たちは聖マリアに光をあてました。光は以前、仕事や不安で興奮していた聖マリアの心を鎮めるためでした。新しい恩恵により、この天の元后の能力はさらに高められました。そのとき、神は御姿を現しました。このイメージは直管的でなく抽象的で鮮明でした。聖マリアは愛すべき御方の腕に抱かれ(雅歌八・五)、高みを目指す鷹が元気を得たように、神の侵すべからざる神の領域に飛び立ち、全人類の到達しえない高見に達しました。この幻視により、聖マリアは神の奥義を知り、神に告白し、神を礼拝しました。神を知れば知るほど、聖マリアはもっと謙遜になりました。